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贅を尽くした遊びの世界。伝統のひな飾り、ひな道具、ひな装束

贅を尽くした遊びの世界。伝統のひな飾り、ひな道具、ひな装束

ひなまつりは、女の子の健やかな成長を願う幸せに満ちた行事です。その起源は平安時代。ふたり並ぶ麗しい姿は、女の子の誕生を祝い幸福な結婚への願いを込めて、最高位の幸せの姿として天皇、皇后の婚礼を表現しています。

段飾りよりもコンパクトなひな飾りが好まれるようになっていますが、お気に入りの内裏雛と親王雛を選んで、後はお道具にこだわって小ぶりの器などの一点物や骨董品などから似合う物を見つけてはおひなさま用にと加えていく、そんな楽しみ方もあります。最近では、作家物を装う外国製の紛い物もあるそうです。本来の心のこもった素晴らしい作品に出会えるよう、知っていると心も豊かになる贅を尽くしたおひなさまのお話をしましょう。

平安の華やかな宮廷文化を伝えるひな人形。

数ある人形の中でもひな人形は、いにしえの日本文化の美的感覚や文化を繊細な伝統の技で伝える芸術のひとつとして今も生きています。ひな飾りから平安の時代の華やかな宮廷文化を感じとることができるのです。

江戸時代中期には、有力大名の婚礼の際に、嫁入り道具のひとつとして非常に豪華なひな人形が作られたそうです。歴史的、文化的価値あるひな飾りを博物館などの展示会で鑑賞する機会があれば、平安の世を知る貴重な機会になるでしょう。

華やかな段飾り、平安のかおり。

 

おっとりした表情の「京雛」とはっきりした表情の「関東雛」。

ひな人形には、京雛と関東雛があり、京雛がより高級といわれています。京雛のお顔の特徴は、やや切れ長の優しい目とおっとりとした雰囲気、関東雛は、目鼻立ちがはっきりとした美人です。

飾り方にも違いがあって、京雛は向かって左側が女雛ですが、関東雛は、向かって右側が女雛です。違いは、京雛は公家式、関東雛は武家式、もしくは西洋式なのだそうです。京雛の飾り方は、京都御所における御即位の式典に由来するといわれ、太陽が先に当たる左を尊しとし、これは座る側からの見方で左が男雛となり、向かって見た場合は、男雛が右側になります。

元来、平安の宮廷文化を発祥としていることを考えると、京雛の方が本来の姿とも言えますが、どちらかしっくりと心地よくおさまる方を選ぶと良いのではないでしょうか。

 

ひな飾りの代表的な三種類。華麗な登場人物と道具。

主役のおふたりだけのひな飾りは、親王飾りといいます。五人飾りは、男雛と女雛の内裏雛おふたりに三人官女を加えたもの、七段飾りは、お人形が十五人揃ったものです。内裏雛、三人官女、五人囃子、左大臣、右大臣、仕丁と呼ばれる従者たちが三人で、計十五人となります。この三種類が代表的なひな飾りです。

凛とした三人官女の美しさ。

三人官女は宮仕えの高位の女官たちです。中央の女官だけが眉を剃りお歯黒をしていて、既婚女性だとわかります。持ち物は、この中央の官女が島台(三方)か盃、向かって右の官女が長柄、左の官女が提子と祝いの膳の様子を表しています。

三人官女の衣裳も美しい。

中央の官女の三方の上にお餅や和菓子をお供えします。長柄は、銚子ともいい、盃にお酒を注ぐ長い柄の道具で、島台には祝儀の飾り物を置きますが、名前の由来は入江の形状の島の姿に吉祥文様を配しているからなのだそうです。提子はお酒を注ぎ勧める器で白酒が入れられるようです。三人官女は、祝いの膳を携えてお仕えする姿を表現しています。

中央の女官だけ座り姿の場合もあります。あとふたりの女官はどのように左右が決まるかと言うと、両方の足のうち前に出ているほうの足が外側になるように飾ると、しっくりと収まります。それほど繊細に計算されて作られているのです。

五人囃子は笛、太鼓の名手たち。

今にも賑やかな音が聞こえてきそうな五人囃子の少年たち。五人ともに元服前の前髪を垂らし、頬はふっくらとした愛らしい少年の様子で表現されます。しんと静かな佇まいのおひなさまの世界の中で、心和む可愛らしさです。

向かって左側から、太鼓、大皮鼓、横笛、そして扇を持つ謡い手と並びます。囃子は、能や狂言、歌舞伎や寄席などで奏する音楽で、五人囃子は、能楽を上演する際の構成です。

五人囃子ではなく、五楽人の場合もあります。これは、雅楽を奏する五人です。

雅楽は、1,200年以上の歴史があるといわれる日本の古典音楽です。日本古来の儀式の際の音楽や舞踏と中国や韓国から伝来した音楽が加わり、平安時代に確立しました。宮廷や寺院、神社で奏され、現代は海外でも高い評価を得ています。

五楽人の場合は、向かって左側から横笛、縦笛、火焔太鼓、笙、鞨鼓と並びます。

豪奢なものは、さらに琵琶と琴が加わって七楽人と賑やかになります。笙は吹き口のあるつぼに長さの違う竹を立てた笛で、鞨鼓は鼓の一種で曲の始まりの合図となる役割りを果たすそうです。

 

左大臣、右大臣と三人の仕丁と呼ばれる従者たち。

正式名称は、隋臣で、お殿様とお姫様を守るという重要な任務を担っています。宮中でもお出掛け先でも身を盾にして守り抜く力強い存在です。ふたりの位は高く、中でも左大臣の方が年上で高位になります。左大臣には、一上という別名があり意味としては公卿の一番で現在で例えるなら内閣総理大臣になるそうです。右大臣はその補佐役です。宮中ではそんな位の差を身に付ける物でも明らかにする慣習があり、ひな飾りの中でも左大臣の方が高級な装いになるように仕立てられます。飾る位置は、お殿様の側から見た左大臣、右大臣であり、向かって見た場合は、左大臣が右側、右大臣が左になるように飾りましょう。

仕丁は、表情豊かな三人ですが、身分の高い人のもとで雑務を行う人々で無報酬であったそうです。笑っている人は笑い上戸といわれ、箒もしくは立傘(雨傘)を持っています。泣いている人は、ちりとりか履き物を置く台を持ち、泣き上戸と呼ばれます。怒っている人も持ち物は熊手か台傘(日傘)を持ち怒り上戸と呼ばれています。このような仕丁たちの表情は、女の子が表情豊かに育ちますようにとの願いが込められているそうです。

 

価値ある作家もののひな人形。

現代のひな人形はもちろん、骨董のひな人形においても、最も価値があると言われるのは、有名作家による作品です。

手作業による京雛の本格的なものは、頭師、織物師、小道具師、手足師、髪付師、着付師の6つの専門部門で作られます。人形の命は顔といわれるように、顔が最初に重視されますが、顔を作るのは頭師と呼ばれる作家です。一流作家の頭は、大変高価です。髪の生え際やまつ毛、眉の一本一本が丁寧に心を込めて描かれます。そして、最後の総仕上げとなるのが着付師による工程で、人形師と呼ばれるのは、着付師なのだそうです。衿や袖口の重なりの美しさ、自然な装束の流れ、バランスのとれたフォルムなど細部に目をやればやるほど、良さがわかります。

 

贅沢なお道具へのこだわり。

御所車でお嫁入り。

三人官女に五人囃子、左大臣、右大臣、そして仕丁たち。内裏雛おふたりが優雅に暮らしていけるようにと、必要な人材が揃ったら、後はお道具が必要です。ひな飾りのお道具は、嫁入り道具です。昔、大名家の嫁入りの際、実際の豪奢な嫁入り道具のミニチュア版を作ったそうです。自分の道具とおひなさまの道具がお揃えなんて素敵です。漆塗りに金箔の道具には、次のようなものがあります。

お嫁入りのお道具たち。

箪笥は、お召し物を入れる家具ですが歴史は浅く、江戸時代に大阪で作られたのが最初なのだそうです。今ではクローゼットや収納ボックスの使用が増え、箪笥は減少しましたが、箪笥にたくさんの着物を入れるのは豊かさの象徴でした。

長持(ながもち)もお召し物や寝具を収納する長方形の入れ物で、同様に衣類を入れる道具に挟み箱があり、これは持ち運び用に作られたかたちから名付けられています。

表刺袋(うわざしぶくろ)もお召し物を入れる袋で丈夫な作りにするために表刺縫いで仕立てたことからこの名称で呼ばれるようです。美しく華やかな彩りが映えます。火鉢、針箱、鏡台、茶道具、重箱なども、全て同じ塗りに金箔の飾りで華やかな仕上げで統一されています。

さらに、お輿入れの際に使われる御所車や御駕籠などの乗り物も縮小したかたちで飾られる場合もあります。

ひな壇を彩る小物たち。

金屏風は、おふたりの内裏雛の後ろに飾るひな飾りに欠かせないお道具です。金箔など質にこだわり、さらに装飾を施すことによって豪華な物になる程高価になります。毛氈は、ひな壇に敷き詰める赤い布ですが、大きな段飾りになるほど使用面積が増えて目立つため、質の良いものが望まれます。

また、雪洞(ぼんぼり)、左近の桜と右近の橘、紅白梅、貝桶、三宝、高杯、菱台と菱餅、懸盤膳など縁起の良いお祝いの小物は、ひな飾りにセットされているものもありますが、最近では、単品でも手軽にネットで購入できるので、買い足したり、買い替えたりしながら、理想のひな飾りを仕上げていくのも楽しいです。

このようにひな壇に飾るものと、少女たちがおひなさまと一緒におままごと遊びができるよう、小さく設えた御膳や食器などもあります。

 

ひな装束は、花嫁衣裳。

おひなさまは、大きく分けて二種類あります。ひとつは、衣装着人形、もうひとつは、木目込人形です。

衣装人形は、仕立てた衣装を人形に着せたのもで、木目込人形は、胴体に入れられた溝に合わせて裂を貼り込んで衣装に見立てた人形です。

装束は、平安時代の宮廷の裳唐衣を模しているものが多いようです。どれほど、この贅沢な装いを細部まで正確に再現しているかで、価値が変わります。丁寧に、幾重もの衣裳を正確に作りあげたものほど高価になります。また、素材もそんな技術にふさわしい高級な西陣織などの織物が使用されます。

 

晴れの装い、裳唐衣(もからぎぬ)

裳唐衣とは、宮廷の高位な女官の装いでとくに晴れの正装がこの名前で呼ばれます。一般的には十二単と言われていますが、実際には宮中では十二単という名称は使われていないそうです。

単衣(ひとえ)という肌の上に長袴(ながばかま)、袿(うちぎ)、打衣(うちぎぬ)、表衣(うわぎ)、()と重ねます。中でも袿は、さらに複数重ねるもので袖口や衿、裾に少しずつ重ねた色目のグラデーションが美しく見られます。この色目は、襲の色目といい、花々の様子や風景などの季節の移ろいから、着る人の個性や教養、細やかな心使いまで色の組み合わせで表現されたと言われています。

ひな飾りの楽しみは、尽きることがありません。子どもたちだけのものにしておくのは惜しいくらいです。大人になっても大人のための、自分のためのひな飾り、ひなまつりを楽しみませんか?

 

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