「幸せの国」で心を整える、「シックスセンシズ ブータン」で安息のウェルネス・ステイを(2)
ブータンには散策して楽しい街や観光スポット、世界遺産はない。ツーリストを待つのは、どこまでも広がる広大な自然と、祖国の文化と伝統を大切にする祈りと信仰の場である。まずは、首都ティンプーを巡る。
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「幸せの国」で心を整える、「シックスセンシズ ブータン」で安息のウェルネス・ステイを(1)
ティンプーの人々であふれる二つの巡礼地
ホテルのはるか向こうにわずかに姿を拝むことのできるティンプーの大仏、「クエンセル・ポダン」に向かった。2010年にできたティンプー市街を見下ろす丘の上に鎮座する巨大なゴールドのお釈迦様である。シンガポールと香港の億万長者が寄進したという。「ブータン大仏」とも呼ばれ、高さは約50m。大仏が座る蓮華座の中はお堂になっており、お寺を巡礼するブータンの人々の長い列が、仏像を取り巻いている。
怒り、欲、無知を3つの大罪として、仏陀日々、五体投地(両手・両膝・額を地面に投げ伏して、仏や高僧などを礼拝する、仏教において最も丁寧な礼拝)をして祈る。怒り、欲、無知、これらを無くして生きることができれば、人間としては最大値の幸福を味わえるはずだ。
自給自足、ヒマラヤ山系の豊かな水力発電エネルギー、敬虔な信仰心と王様が心の拠り所。本来人間が生きるために必要なものがこれだけそろっていれば、不安なく生きていかれるだろう。これが「幸せな国」の由縁であろうか。
もう一か所、敬虔なティンブーの人々が足繁く巡礼する場所がある。1973年に亡くなった3代国王を記念して建てられた仏塔型寺院、「メモリアル・チョルテン」だ。首都ティンプーの町のシンボルでもある、白く大きなチョルテン(ストゥーパ=仏塔)。仏塔内は三層構造になっており、内部に描かれた美しい密教の憤怒尊や仏像は必見だ。特に中央に納められた憤怒尊の形をした歓喜仏(ヤブ・ユム)の立体マンダラはここでしか見ることができない。
ティンプー市民が朝から晩まで大勢訪れてお祈りをし、マニ車を回す。円筒の中に経典が入っていて、時計回りに1回転させるとそのお経を1回読んだこと、つまり徳を積んだことになるとされる。ブータンでは寺や公園など至る所で見られる光景である。
ティンブーを訪れたら必ず足を運びたい、市民が日参するチベット仏教信仰の場を日常に感じられる2つの聖地である。
ステイ先ホテル「シックスセンシズ」にも、インフィニティプールに浮かぶ祈りのパビリオンがあり、キラ姿のスタッフが祈りを捧げる姿が大自然と調和して、この世のものとは思えないほど神々しい。
伝統様式の美が生む洗練された美術工芸品
デザイン性あふれる装飾を随所に見ることができるブータンは、工芸品のクオリティが高い。未来の名工が学ぶゾーリクチュスム(伝統工芸院)には、仏画、塑像、木彫、刺繍などブータンにある13(チュスム)種類の伝統工芸を教える寄宿制の学校があり、授業に支障がない範囲で公開されている。刺繍は民族衣装のキラなどに使われ、その緻密さと彩りの美しさには目を見張る。着物のように反物になっており1万米ドル(約150万円)するものもあるが、ベッドカバーやクッションカバーなどの比較的リーズナブルなお土産に心惹かれる。
また、チベット文化圏では珍しく森林資源に恵まれたブータンでは、お経を書き記すための「デショ」と呼ばれる伝統的な紙の製造が盛んだ。和紙のような趣きのある紙でホテルのメニューなどにも使われている。それもそのはず、日本の紙漉きの技術指導を受けているため、作業工程は和紙作りそのものなのだ。そんな紙作りの工程を見学ができる製紙工場もある。紙に花をあしらったレーターセット、淡い色に染めたノートなど、手作り感あふれるお土産選びも楽しい。
市民の台所で人々の暮らしに触れる
初めてのブータン。「ティンプー市民の台所」は、押さえておきたい。市場ではその地の日常の暮らしを垣間見ることができる。”サブジバザール”(ヒンディー語で野菜市場の意味)と呼ばれ、野菜や米、乳製品、スパイス、お香などが洗練されたディスプレイで美しく並べられている。
ほかのアジアの国々に見られる市場のカオスは一切無縁。驚くほど清潔で、野菜クズ一つ落ちていない。日本米を含む多種多様な米やスパイス、ハーブの種類がとても豊富で、食生活の豊かさを物語っていた。
聖なる山頂のサプライズ・アフタヌーンティー
ティンプー散策からもどると、「軽いトレッキングに行きませんか?」とガイドのプディムさんに誘われる。山岳地帯を訪れたからには一回くらいはと覚悟の上だったので、標高2700メートルからトレッキングに向かう。途中案の定、酸素欠乏になったものの、1時間ほどで山頂に無事到着。そこは、白い旗、仏教信仰の一つである「ダルシン」が旗めく神聖な地だった。ダルシンとは、祈りの旗のこと。高さ5メートルほどの縦長の布地に細かい文字でびっしりと経文が書かれており、まとめて数十本立てられている。
360度視界が開ける先にはヒマラヤの山々が。そこに待っていた優雅なサプライズは、ブータンの人々が大好きなお菓子やマサラ茶などで仕立てられたアフタヌーンティーだった。山に登り切った達成感を祝ってくれるバラが飾られていた。スタッフの皆さんにブータンのポピュラーなお菓子を解説してもらいながら和気藹々と時間が過ぎていく。自然をホテルステイの魅力的なリソースとして編み出された「シックスセンシズ」ならではの素敵なリトリートである。
トレッキングの後の癒しの時間
疲れた足を引きずってホテルにもどると、ブータン伝統のホットストーンバスが待っていた。バスタブをハーブで満たし、その中に浸かっていると、dotsho(ドォツォ)と呼ばれる赤く燃える大きなホットストーンがどんどん投入され、体の芯から温まることの出来る石焼風呂だ。ハーブの香りに満たされながら、温浴効果でじわじわ疲労回復していく。翌日にはトレッキングの疲れはすっかり解消していた。
イサ・ラク シェフのディナーへ
一日の終わり、ホテルのレストランでディナーをいただく。メルボルンから半年ほど前に赴任してきたというホテルのシェフ、イサ・ラク氏はティンプーの市場で初めての食材を見つける喜びを嬉々として語ってくれた。シカゴのコルドンブルーを卒業後、フレンチがベースではあるが、世界中をまわって料理を作る機会を得たことで、料理の枠を取り払い、その地の食材の魅力を最大限に引き出すオリジナルの料理を生み出している。
この日のディナーでは、ブータンの野菜やきのこ類を使ったコース料理を振る舞ってくれた。「今日、見つけた野菜で名前も知らない」という多様な野菜は、スパイスやハーブとともにこれまで培ってきたテクニックで仕立てられ、斬新なひと皿ひと皿に姿を変えて堪能させてくれた。
シェフ曰く、「まだまだブータンは知られざる食材の宝庫。市場で売る人も名前すら知らずに売っている食材が多いが、これからも未知の食材を開拓していくのが楽しみ!」だそうである。もちろんホテルにも畑があり、提供される料理はかなりのパーセンテージで自給自足となっている。
滞在中は、このようなブータン・マジックを感じられる瞬間が何度も訪れる。次はどんなマジックが待っているのか、かつて冬の間に都が置かれていたという、プナカへと向かう。
((3)へつづく)
取材・文 山下美樹子
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