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現代女性に似合う着物をつくる。京都・西陣「かはひらこ」佐竹美都子さん(後編)

現代女性に似合う着物をつくる。京都・西陣「かはひらこ」佐竹美都子さん(後編)

ヨット競技でアテネオリンピックに出場した後、家業である西陣織の機屋(はたや)、佐竹孝機業店の跡取りとして仕事を始めた佐竹美都子さん。自身のブランド「かはひらこ」を立ち上げ、お客様の声に応えて日本中を飛び回る日々、女性の心を捉えた人気ブランドの作り手としてどんな未来を思い描いているのでしょうか。

【佐竹美都子(さたけみつこ)プロフィール】

株式会社西陣坐佐織代表取締役。
同志社大学卒業。2004年アテネオリンピック セーリング競技日本代表。2005年より家業の西陣織製造業に従事。2012年株式会社西陣坐佐織設立。翌年、オリジナルブランド「かはひらこ」を立ち上げる。華道 小松流師範、能楽観世流、煎茶道など和の文化にも造詣が深い。

かはひらこ
https://kahahirako.com/

現代の女性のライフスタイルに合った、着たくなる着物を作る

--ご自身が作られる着物の発想はどこからくるのでしょうか?

師匠でもある父は、面白いことや他の店がやっていないことをやる人で、「どこにでもあるものは作るな」と私にも言います。まったく違うものは作れませんが、まず自分で柄を起こすことを求められました。吉祥文様や正倉院文様などの古典柄もいいのですが、それは当時の職人が生み出した柄。父は、「現代を生きる女性にとってのデザインを自分で考えろ」と言う。大変だし失敗することも多い。おまけに自分のイメージ通りに作れないというジレンマがありました。

父は道端の石を見ても、「この石おもしろい」とイメージをふくらませる天才肌の人です。でも私は現代の女性に向けた着物が作りたい、着物ファンが増えてほしいと思っているので、百貨店で流行の洋服や化粧品の新色を見て、この色をこの柄に生かしたいと発想を得ています。
洋服にしかできないことは洋服でいい。民族衣装として着物を考えた時に、私が作るブランドはファッションとは違うのかなと思っています。着物が素晴らしいと外国人に知ってもらうより、日本の女性が現代のシーンで着られる、かっこいい、かわいい着物をイメージしています。

--クロコダイルの革のような帯がありますね

西陣織の代表格であるジャガードの織機を使っています。素材は漆です。漆は日本を代表する工芸品で、英語では“Japanese lacquer”ですが、古い呼び方では“Japan”といわれていました。着物で“Japan”を語れるものを作りたいと、引箔の手法で、赤や黒の顔料を入れる前の漆を使って革のように見せています。
昔、武将が身につける鎧の革の部分に漆が使われていました。主な目的は防水のためですが、現代女性にとって着物が鎧なら、革のようなデザインもありかなと。この帯は、泥染め、藍染め、柿渋染めのように、日本の土壌から生まれた染料で染められた着物と合わせると、とてもスタイリッシュになります。大島紬の茶泥の竜郷柄のような素朴な柄の着物に合わせると、すごくかっこよくなります。

柄に込められた意味を知って着るということ

--柄はどのように考えておられますか?

着物はカラダを包むことと結ぶことで形になります、くるんで守るんですね。帯は結ぶといいます。しめ縄のように神聖なものを守る結界だとも考えられます。どういう意味の柄や文様で、着る人を守るのか、結界をはるのか、祈りとか願いという意味を込めて柄を起こしています。

若い子がコスプレ感覚で着るのもいいと思いますが、年齢的にも精神的にも大人になった人が着ると、心が落ち着いたり普段と違う時間の流れを感じたりできるのではないでしょうか。もちろんその場にふさわしい着物というのもありますが、人に見られるからというより、好きな着物を着ると自分の中のスイッチが変わるんです。

--着物を着ることで見えてくるものがあるのでしょうか

着物に興味がなかった私が、着物を通して日本の文化や歴史に思いを馳せ、自分自身に向き合うことができました。和のお稽古ごともそうですね、お茶を通して人生観と向き合い、お花やお軸のことを知ったり、器のことを勉強したり、お稽古ごとが他のことを知るきっかけになります。行事があるから着物を着る、というのではなく、着物を通じて日本の文化を知り、楽しんでもらえたらと思います。

着物を来て歌舞伎や寄席に行きたいという人がいます。利便性を考えたら洋服がいいのかもしれませんが、着物を着るとものの見方や価値観が変わる点は、より豊かな人生を送るにはいいと思います。着物は大人が着たほうが似合うし楽しめます。修学旅行で京都に来たときより大人になってから来たほうがより楽しめるのと同じですね。

西陣織の魅力を今の女性たちに発信していきたい

 

--男性が中心の業界で反発はなかったですか?

偉い先生に図案や素材を提供してもらえることもあるし、会社とか立場をこえていろんな人が協力してくれます。今は跡取りがいないところが多くて、それぞれの技術や道具を次に渡すことができないから。西陣織は分業が細分化されているため、いろんな道具を使います。その職人さんがやめてしまうと技術がなくなるだけじゃなくて道具もなくなってしまいます。

私は自分の家を継ぐ立場ですが、西陣の職人さんたちが長い歴史の中でやってきたことを発信する役割もあると思っています。西陣のことをすべてわかっているわけではありませんし、職人さんが培ってきた技術を全部残すことは難しいことです。でも、私は次の世代にバトンタッチできるものを探す役割なのかなと思っています。

--オリンピックに出場したことが人生に大きな影響を与えているのでしょうか

オリンピックに出たことより、上を目指して懸命に練習して試合に出て、海外の選手と交流する中で自分と向き合ったことの方が重要だと思います。勝利を目指して自分を追い込んだ経験も含めて、すべてが今につながっていると思います。
振り返ってみると、人生に何一つ無駄はなかったと思います。銀行では資産運用の担当として、富裕層を相手に仕事をしていました。お金持ちだからというより、気持ちに余裕がある人、豊な人生観を持つ層だったので、着物を買う層と似ていました。経営のことも銀行で学びました。その後、海外で競技したことは価値観や人とのつきあい方を肌で感じることにつながりました。

ものを作ることは自分自身を表現すること。だから10年前に作ったものを今見ると恥ずかしかったりします。でもそう思えるのは自分が変化しているから。常に学びを続けてないとダメだなと自分に命じています。
知りあいに能の先生がいるので、なんとなく習うことになったのですが、全然楽しくない。父にそれを言うと、「楽しかったらただの趣味だ。楽しくないから稽古だ」と一喝。忙しいから時間を作るのが大変だというと、「時間を作るためのお稽古だ」と。時間を作ること、そこに心を費やすことが大事だというんです。くやしいけれど返す言葉はありません(笑)。父はすごい人だと思います。父が師匠でよかったとも。

西陣のまちに再び機の音を響かせたい

--これからやりたいことを教えてください

昔はこの西陣のまちを歩くと、あちらこちらから機音が聞こえていました。今はほとんど丹後地方で織っているため、西陣に機音はありません。この機音をもう一度西陣に戻したいのです。織機と機を織る職人も必要ですし、時間がかかるのは承知の上ですが、近くの町家で機の組み立てを始めています。展示ではなく、生きた機を戻したいから、商品としてのモノ作りができるように準備しています。

オーダーメイドでの帯作りもやりたいですね。着物と違って帯の誂えはあまりないのですが、糸や柄や着物のことをわかっているプロデューサーがいないと難しいので、私が牽引役になれたらと思っています。

--全国の小売店の展示会に引っ張りだこですね。

ありがたいことに、予定は3年先まで決まっています。この10年、年間3,500人くらいに着物と帯のコーディネートをしてきました。着物に帯を合わせるというより、着る人に帯と着物を合わせるという考え方です。どういう自分になりたいのか、どんなものが似合うのか、生活スタイルもしっかり聞いてコーディネートします。この着物なら娘さんに譲れる、この着物ならお茶会にも行ける、というアドバイスももちろん。たしかに洋服より高いですが、買った人はその価値と満足度を理解されています。私が作るのは自分のために着る着物だから、より楽しく、着物を好きになってもらおうと、目の前のお客様に接しています。

私は跡取りですが、まだ駆け出しです。事業を継続させてこそ「継いだ」といえるので、まだ本当の意味で継げているのかはわかりません。でも、この先も、女性たちにキュンとなってもらえる着物を作っていこうと思います。

かはひらこ
https://kahahirako.com/

株式会社 西陣坐佐織
京都市北区紫野西藤ノ森町12-21
電話:075-441-3007

佐竹孝機業店
京都市北区紫野西藤ノ森町12‐20
電話:075-441-3307

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