【Mr.Xの財産管理の最前線 第3回】現在の税制を踏まえた相続対策(新法解説編)
5つ星マガジン読者の皆さん、こんにちは。「Mr.Xの財産管理の最前線 第3回」、今回は約40年ぶりに変わった新相続税法、またそれを踏まえた相続対策の情報をお届けします。
Mr.X
1988年より金融の最前線にてクライアントの資産管理、運用提案を行うプライベートバンカー(PB)。
職務経歴は、1988年より大手証券会社に約22年、フランス系のPBに約2年、大手メガバンクとイギリス大手銀行とのジョイントベンチャー組織に5年弱勤務し、現在はIFAとして独立、IFA事業会社に個人事業主として所属している。
約40年ぶりに変わった新相続税法を踏まえた相続対策
近年、相続に関して親子・きょうだい同士が裁判で争うケースが頻発しています。さらに2015年1月からの相続税制により基礎控除額が大幅に引下げられ、より多くの方々が相続税問題の当事者となっています。
相続は争いが多い手続きなので、民法では基本的な法として相続法を定めています。
昨年7月に決定した相続税法の改正は、高齢化社会となり遺産相続の課題やトラブルが増加している背景もあって、約40年ぶりに大きく改正されました。改正法は、今年の1月より順次施行されていますが、基本的には2019年7月1日から施行されています。今回は改正が大幅に行われましたので、今号においては、まず改正された内容について把握して頂き、次号にてその対策について解説したいと思います。
相続税法、何が変わった?
では何が変わったのか。大まかにいうと、被相続人の配偶者の生活が安定するよう住まいについての権利が見直され、他にも財産目録がパソコンで作成できるようになり、遺言書を法務局で保管してもらえるようになりました。また、被相続人の介護を行った親族も金銭を要求できるようになりました。
改正のポイントを箇条書きに整理します。
①被相続人の配偶者は家を所有しなくとも住み続けられる
②配偶者は住居の生前贈与で住居を遺産分割の対象外にできる
③被相続人の預貯金から払い戻しを受けられる
④直筆証書遺言書の財産目録はパソコンで作成できる
⑤直筆証書遺言書を法務局で保管できるようになる
⑥遺留分を侵害された者は侵害した者に対し、侵害額に相当する金銭を請求できる
⑦被相続人の介護などをした親族も金銭を請求できる
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日は、以下のとおりです。
(1)自筆証書遺言の方式を緩和する方策/2019年1月13日
(2)原則的な施行期日/2019年7月1日
(3)配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等/2020年4月1日
(4)法務局での自筆証書遺言の保管/2020年7月10日
改正内容の解説
「配偶者居住権」の新設
それぞれの内容について解説します
まず改正ポイントの①と②についてですが、2020年4月には、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」が施行されます。相続時のトラブル発生の原因の一つに不動産の「所有権」がありました。
これまでたとえば、非相続人の配偶者と子供一人が、現金2000万円と評価額2000万円の家を相続するとした場合、法定相続分は同一の2000万円なので、配偶者が家を相続したら、現金の2000万円は子供が相続することとなり、配偶者は手元資金が無ければ、相続した家の相続税が払えない事態となりました。この問題を解決するために「配偶者居住権」が新設されました。この制度は家を「所有権」と「居住権」に分けて相続させることにより、配偶者は相続権がなくても居住権があれば家に住み続けることができ、子供は所有権を持つことで家を守ることができます。さらに配偶者は「居住権」の評価額分を差し引いた現金も相続できることになります。配偶者は家を相続しなくとも居住でき、現金も相続できます。
さらに婚姻期間が20年以上の夫婦の間で家を遺贈、もしくは生前贈与した場合、これまでは遺産分割時に遺産に含まれ、改めて配分されていましたが、遺産分割の対象から除外されるようになりました。
金融機関や家庭裁判所で必要な資金を引き出せる
次に③についてですが、これまで金融機関は、相続発生の情報を受けた時点で、その口座を凍結していました。一度凍結されると相続人の間で遺産分割の内容が合意され、手続きが完了しなければ現金等を引き出すことはできませんでした。これが改正後は口座のある金融機関や家庭裁判所で手続きを行うことで、必要な資金を引き出せることになりました。ただし仮払い扱いとなるので、遺産分割の対象にはなります。仮払いで出した資金は、葬儀費や、相続の納税にも活用することができます。
自筆署名があればパソコンでもOK
次に④と⑤ですが、遺言書には大きく分けて三種類あり、手軽なのは自由に書くことができる自筆証書遺言です。ただし、有効な遺言書とするためにはいくつかの条件を押さえる必要があります。その中で財産目録、遺言書の双方を自筆で作成しなければなりませんでしたが、今回の改正で、自筆署名があれば目録はパソコンで作ったものが認められ、従って印刷されたものも可能になり、預金通帳等の写しに署名押印したものも代用に使うことが可能となりました。
自筆証書遺言の作成が簡素化されたことに加え、法務局による保管制度も開始されることになりました。法務局では形式上の問題の有無と最低限の内容確認だけ行い、そのまま原本を保管します。保管時に作成者の本人確認を行うための検認の必要がなくなり、紛失、偽造などの心配もなくなります。
遺留分は基本現金で
⑥は相続財産を受け取れなかった相続人の、法律で保障された最低割合分である遺留分についてですが、これは複雑で対応が難しいことが多くありましたが、より明確かつ平等になるよう改正されました。
実際に遺留分の請求を受けても、財産を現物で渡していましたので、分割が困難なケースが多く、トラブルの原因にもなっていましたが、改正により、基本現金で渡すこととなりました。また遺留分減殺請求を受けた相続人から、請求額以上の財産が支払われても返還請求がない限り、超過分を返さなくてもよくなりました。さらに特別受益の持ち戻しに対しても、相続開始10年以内のものに限定するという、時効が導入されました。相続財産に債務が含まれる場合、相続人が被相続人の債務を弁済していた場合など、その費用分は遺留分から控除されることになりました。
相続人以外にも寄与分が認定対象
最後に⑦ですが、これまで認められていなかった、相続人以外にも寄与分が認定対象となることになりました。
寄与分とは相続人が無償で行った介護などのサポート、財産の維持や増加を助ける無償での貢献のことで、今回の改正により、6親等内の血族、配偶者、または3親等内の姻族は相続人に対し請求を行うことができるようになりました。
このように今回の改正が約40年ぶりに行われ、かつ対象が多岐にわたっていますが、相続人の手続きが容易になり、またトラブル回避につながる変更で、極めて実務的な変更といえます。
次回号は、変更を踏まえた対策について解説致します。
<プライベートバンカーの一言(私見)>
これまでの相場について、景気の循環からお話をしてきましたが、好調であったアメリカも景気指標に陰りがみえてきました。大幅な金融緩和が実施された時を除き、実体経済の上昇なくして、金融市場の上昇はあり得ないのですが、現在マーケットは高値を維持しています。先進国はすでに大幅な金融緩和状態であるにも拘わらず、過剰な金融緩和期待感がマーケットを支配しています。もともと一年の中で10~12月期はマーケットが荒れやすい時期であることも考慮すると、実態との乖離を埋めようとする動きが起こるかもしれません。現在、水面下では不安要因が多く、どの要因もきっかけとなりえるため、今はこれまで以上に警戒を怠らないほうが良いと考えます。
Mr. X
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