【Mr.Xの財産管理の最前線 第4回】現在の税制を踏まえた相続対策後編(不動産解説編 他)
5つ星マガジン読者の皆さん、こんにちは。今回は前号で紹介した、40年ぶりの民法改正を踏まえた相続税制について、特に自宅用不動産にフォーカスして解説致します。
また、一言欄にて直近の金融相場についても少し解説致します。
Mr.X
1988年より金融の最前線にてクライアントの資産管理、運用提案を行うプライベートバンカー(PB)。
職務経歴は、1988年より大手証券会社に約22年、フランス系のPBに約2年、大手メガバンクとイギリス大手銀行とのジョイントベンチャー組織に5年弱勤務し、現在はIFAとして独立、IFA事業会社に個人事業主として所属している。
相続税の節税対策のポイントは2つ
相続税の節税対策のポイントを簡単に整理すると、財産そのものを減らす、評価を下げる、の2点となります。
財産そのものを減らすには、相続財産の大きなものから手を付けることです。その方法として、代表的なものが生前贈与です。生きている間に現金、土地などを贈与する方法です。
もう一つは評価を下げる方法ですが、こちらは不動産に有効です。特に大きく評価を下げることができるのが、小規模宅地等の特例ですが、適用されるかどうかを確認する必要があります。
相続発生時、相続財産の中で大きなものといえば不動産で、この不動産をそれぞれの相続対象者の事情により、事前にどのように対策を講じるべきかを整理したいと思います
具体的には、配偶者居住権と生前贈与、相続による取得の比較、特に自宅を取得する場合、どうするのが好ましいのかです。
配偶者短期居住権と配偶者居住権の違い
まず初めに、自宅を相続せず、居住できる配偶者居住権についてです。
前回号でご紹介しましたとおり、2020年4月から、配偶者が被相続人の自宅に住み続けられる権利である配偶者居住権が始まります。配偶者居住権には、配偶者短期居住権と、配偶者居住権の2種類があります。
配偶者短期居住権は、常に最低6か月は自宅に住み続けられる権利で、遺産分割協議により配偶者以外が自宅を相続した場合や、第三者が自宅を取得して、退去を求められた場合でも、そこから6か月間は無償で住み続けられます。配偶者が遺産分割協議に参加する場合は、自宅の所有が決まるまで、6か月を超えて住み続けることもできます。
一方、配偶者居住権は、一生涯住み続けられる権利です。遺産分割または遺贈によって、この権利を取得でき、この配偶者居住権には財産的価値があります。ただ、通常の所有権よりも低く評価されるので、他の遺産がもらえず、生活不安になることを防ぐ効果もあります。
生前贈与の活用
次に生前贈与で自宅を得て、住み続ける方法についてです。
配偶者居住権の活用以外で配偶者が自宅に住み続ける方法が生前贈与の活用です。
法改正により、婚姻期間20年以上の夫婦間で生前贈与された自宅等は、相続時に持戻しの対象になりません。生前贈与しておけば、相続が始まっても配偶者が安心して住み続けることができます(ただし、遺留分の対象になることがあります)。また、生前贈与だけでなく、遺贈によっても同様に配偶者の住まいを確保することができます。
贈与の場合、自宅の所有権は配偶者が持つことになります。この点が配偶者居住権との大きな違いです。
配偶者居住権も生前贈与(遺贈)も、どちらも残された配偶者にとって助けになる制度です。それぞれの要件や手続き、税金面での違いを比べて、自分にふさわしいほうを選ぶことが大事です。
これ以外に、これまで通りの相続で自宅を取得する方法ももちろんあります。どれが得なのか比較してみましょう。
配偶者居住権と生前贈与、どっちがお得?
比較しやすいように配偶者居住権を①、生前贈与による取得を②、相続による取得を③とします。
権利については、①は居住権、②、③は所有権です。
税金については、①は相続税(基礎控除枠内は非課税)と登録免許税4/1000、②は贈与税(ただし、居住用財産贈与の配偶者控除と基礎控除適用で最大2,110万円まで非課税)と登録免許税20/1000と不動産取得税がかかり、遺贈の場合は相続税と登録免許税4/1000となります。③は相続税(ただし、基礎控除内であれば非課税)と登録免許税4/1000です。
メリットとデメリット
それぞれのメリットとデメリットを比較してみましょう。
①のメリットは、所有権よりも評価額が低くなり、その分、他の遺産も取得しやすい点で、デメリットは譲渡ができないことです。
②は生前贈与なら、見届けられて安心であり、配偶者控除なら、相続の課税対象にならないので節税効果があることがメリットとして挙げられます。デメリットは、居住権や相続よりも税負担が大きくなることがある点です。
③は生前贈与よりも税金の負担を抑えた上で、所有権を取得できる点と、小規模宅地等の特例が適用されることがメリットとして挙げられます。デメリットは、不動産は金額が大きいので、他の遺産を取得できず、生活資金が足りなくなる不安がある点です。
これらのことを踏まえて考えると、財産として所有したいのか、住み続けることを望むのかをまず考える必要があります。ただし、相続開始の年齢が、高齢化していることを考えると、健常なうちに安心を求めるならば、生前贈与が良いと考えます。
Mr.Xの一言
前回寄稿させて頂いた時点後に米国の再利下げがあり、都合3回の利下げとなりました。
米中の貿易協議に多少の進展があるとみられ、景気循環サイクルの中で、半導体サイクルが底打ちから好転への兆しが表れたことにより、世界的な金利の下落に歯止めがかかり、相場は悲観から楽観へと様相を変えました。現在は低金利政策のために金余り状態となっており、投資環境に不安要素が少なく感じた時は、実態以上に相場が上昇することがあります。実態以上の上昇をバブルと言いますが、現在の状況はバブル的な動きの可能性が高いと考えられます。
政策金利の引き下げ、米中貿易協議の進展、半導体サイクル好転の可能性からの景気回復、欧州の景気回復の可能性、どれをとっても確定されたものはありません。従って楽観的な想定と、少し前までの悲観がもたらしたヘッジポジションの増加からの買戻し需給が、余った資金に火を点けた状況ですが、実態経済が実際に好転しない限り、長続きはしない局面です。一旦は想定以上に上昇することも考えられますが、ただ単に延命されただけであると考えますので、バブル現象の可能性が高いと判断し、リスクは承知で上昇相場期待の短期投資は可能かもしれません。
某欧州系プライベートバンクの直近のコメントに、世界の富裕層は2020年に起こり得る可能性のある混乱を避けようと準備をしているというものがありました。大多数の富裕層投資家が来年末までに株式市場が大幅に下落すると予想しており、また、富裕層たちは現在、資産の平均25%を現金で保有していることも分かったとのことでした。この相場観が当たるかどうかはさておき、基本に戻り、株式は何を根拠に上昇するのかを冷静に考える必要があると考えます。短期投資は投資ではなく、投機であることを念頭にこの数か月をご判断下さい。
Mr. X
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