【Mr.Xの財産管理の最前線 第7回】新型コロナショック この先の想定シナリオ
前号にて金融政策、財政政策よりも感染抑制策の方が重要であることをお伝えしましたが、前号の寄稿から約1か月が経過致しましたので、現在の状況と現状を踏まえた今後の想定シナリオを報告致します。
Mr.X
1988年より金融の最前線にてクライアントの資産管理、運用提案を行うプライベートバンカー(PB)。
職務経歴は、1988年より大手証券会社に約22年、フランス系のPBに約2年、大手メガバンクとイギリス大手銀行とのジョイントベンチャー組織に5年弱勤務し、現在はIFAとして独立、IFA事業会社に個人事業主として所属している。
4/17現在の金融マーケット状況
まずは4/17(各国の終値)現在の金融マーケットの状況を確認したいと思います。
前号の寄稿時には、各マーケットが大幅に下落している最中で、歴史的な相場変動となっていました。その後3/23ごろよりマーケットは徐々に落ち着きを取り戻し、米国、日本の株式市場は現在、下落幅の約1/2を回復している状況です。
株価について
日経平均株価の4/17の引け値は19,897.26円で、今年1/20に付けた直近高24,083.51円(引値ベース)から3/19の直近最安値16,552.83円(引値)の下落幅7,530.68円の約44.41%のリバウンドとなりました。米国市場4/17のNYダウ引け値は24,242.49ドル、2/12史上最高値29,551.42ドル(引値)から3/23の直近最安値18,591.93ドル(引値)の下落幅10959.49ドルの約51.56%のリバウンドとなっています。
為替の状況
為替(ドル/円)は4/17のニューヨークの引け値が107.53円(3/9の直近最安値は101.19円)でしたが、ドル/円は前号時(107.93円)とほぼ同じで、4/17の米国10年国債の金利は0.642%で前号時(0.983%)より少々低下しました。金価格(先物6月限月引値ベース)は1,694.60ドル(直近最高値は4/14の1,768.90ドル)で、前号時(1,529.10ドル)より大幅高となっています。
このように金融市場は株式市場については落ち着きを取り戻しつつありますが、ドルの需要が高い状態が続き、債券市場への資金流入も継続しており、金価格も続伸している状況となっていることから、リスク資産と安全資産がほぼ同時に上昇しています。
原油価格の変動
一方、前回指摘しました、換金できる商品全てに売りが出ていた可能性についてですが、その主体は産油国ではないかとの憶測を呼んでいます。原油が大幅下落となっているからで、WTI原油の今回の動きは、今年の1/6の最高値の63.27ドル(引値)から4/17の直近最安値18.18ドル(引値)まで下落、下落率は約71.27%と産油国にとっては大変厳しいものとなっています。原油価格の低迷が長引けば、産油国は資金確保のために運用資産の売却を継続しなければならず、さらにシェール企業のクレジットリスクにまで波及することが懸念されます。
各国のコロナ関連政策の動向
次に現時点での各国の政策を確認致します。
はじめに緊急抑制策ですが、米国は3/13に強制力を伴う国家緊急事態宣言を発令し、不要不急の外出を控えるよう要請、3/27に国防生産法を発動し、GEに適用し、連邦政府との契約により、人工呼吸器の製造の優先を強制する措置を取りました。4/15には米疾病対策センターの局長が、感染拡大の影響が限定されている約20州で、5/1に経済活動を再開できる可能性について言及しました。
ユーロ圏は3/10以降各国が非常事態宣言による外出禁止措置を実施、3/17にEUは17日のテレビ首脳会議で感染拡大阻止のため、第三国から欧州への入域を30日間、原則禁止することで合意。
日本は4/7に7都府県に対して緊急事態宣言、16日夜の対策本部にて、対象地域を全国に拡大することを正式に決め、5/6までの期間延長をしました。
中国は春節休暇の延長をし、武漢などを都市封鎖。全土でイベント、外出、移動を抑制しました。対策が早かったことから、新規感染減少により、現在は徐々に抑制解除しています。
各国金融政策の動向
次に金融政策ですが、米国はFRBが金利を3月に2回、合計1.5%の緊急利下げを実施し、ゼロ金利を復活させ、無制限量的緩和も実施しました。一定の条件を満たしたCP、社債、MBSの購入も決め、「禁じ手」とされた低格付け債(投資不適格とされるリスクの高いダブルB格債)の購入にも着手しました。
ユーロ圏はECBが量的緩和を拡大させ、企業向け貸し出し支援策を拡充しましたが、利下げはありませんでした。
日本では日銀が企業金融支援措置として、民間企業債務を担保に最長1年の資金を金利ゼロ%での供給を9月末まで実施することを決定し、CP、社債購入残高上限をそれぞれ1兆円増額、ETFは年間約12兆円、J-REITは年間約1,800億円を買い入れ上限の増額としました。潤沢な流動性の供給を実施しています。
中国は預金準備率の引き下げ、貸出金利の引き下げによる流動性の供給を実施しています。
各国の財政政策の動向
最後に財政政策ですが、米国は3/6に第1弾(83億ドル:感染対策中心)、3/18に第2弾(1,000億ドル:所得補償中心)を実施致しました。3/27に2兆ドル規模の経済対策も成立し、4/9に2兆3,000億ドル(約250兆円)の新たな緊急資金供給を発表。給与税減税も検討中です。
ユーロ圏はEUが3/21に各国の財政赤字をGDPの3%以内に抑える規則を一時的に棚上げする例外条項の発動を表明しました。ドイツも連邦議会が3/25にコロナ対策の一環として、1,560億ユーロ(約20兆円)の国債の新規発行を可決し、財政出動することを決めています。4/9にはEUのユーロ圏財務相会合において、新型コロナウイルスに対応する総額5,400億ユーロ(約64兆円)の対策に合意しました。
日本は4/7に過去最大で、GDPの約20%に相当する財政支出39兆円、事業規模108兆円の緊急経済対策を発表しました。
中国は各省がインフラ投資を柱とする景気対策、企業の保険料免除、中小企業の減税等の政策を実施しています。ただし、今後も抑制的な経済対策スタンスを継続すると考えられるため、リーマン・ショック時のような莫大な財政出動は期待薄です。
考えられる今後の経済の想定シナリオ
これらのことを踏まえて、今後の経済についての想定シナリオを考えてみたいと思いますが、新型コロナウイルス感染の動向次第で先行きが変わることから、5つのパターンに分けて考えたいと思います。
◇第一のシナリオ
感染拡大が計画通りに抑え込まれ、死亡率も低下傾向となり、年末までに景気が以前の状態にまで戻るというシナリオ(V字回復)の場合、マーケットは現在の回復上昇トレンドを継続し、株式市場は徐々に加速、以前の水準を回復すると考えらます。
◇第二のシナリオ
感染が拡大せずに横ばいの状況が続くが、徐々に経済活動が再開するシナリオの場合、暫くリスク資産と安全資産との間で資金移動が行われ、経済の回復度合いに見合った形で徐々にリスク資産への資金シフトが起こると考えられ、株式市場はナイキ型の回復となる可能性があります。
◇第三のシナリオ
一旦終息傾向を示すが、年後半に再度感染の拡大が再燃するシナリオの場合、当初の感染拡大期よりもウイルスに対する対抗策や医療体制が確立されている可能性が高いのですが、ウイルスの感染力や死亡率が想定できないことから、再度景気の悪化が想定されます。この場合のマーケットは二番底を試す局面となり、再度リスク資産より安全資産へと資金シフトが起こる可能性が高いと考えられますが、二番底を確認後は、比較的に早い回復となる可能性が高いと考えます。
◇第四のシナリオ
感染リスクが収まらず、ウイルスと対峙したままの状態が継続するシナリオの場合、経済は一気に回復することができないことから、長い期間弱々しい回復を継続し(L字型回復)、低成長が長く続くことになる可能性があります。金融市場も常にリスクと隣り合わせとなり、長期低迷となることが考えられます。
◇第五のシナリオ
予想を上回る速さで感染収束と死亡率の低下が実現され、各国の金融政策、財政政策による多額の資金が早期の景気回復を実現すると同時に金融マーケットに過剰流動性相場をもたらすというシナリオです。安全資産である債券、金などから株式等のリスク商品へと資金が一気に流入し、株式市場は以前の高値を更新するような大幅上昇となることが考えられます。
現在この中で専門家たちが考える可能性の高いシナリオは、第一と第三のシナリオです。再度感染リスク拡大を経て回復するのか、感染拡大は想定の範囲で抑制され、約半年をかけて経済が回復するのかというものです。一年かけて回復する、または半年かけて回復するかの違いですが、いずれにせよ、多少時間はかかるものの回復するというシナリオがメインシナリオのようです。
しかし、私の見解は少し違います。ただし個人的な見解であることから、この後のMr.Xの一言で解説します。
Mr.Xの一言
現在の世界の金融市場を把握するために、是非覚えて頂きたいことがあります。必ずどの金融市場、商品もドル建てで見て頂きたいのです。米ドルを通してみる必要性は、ドルが基軸通貨であり、運用資産の多くがドル建てでスタートするからです。今回の新型コロナによるマーケットの混乱においても、ドル/円は瞬間円高となりましたが、すぐに元の水準となったのもドルの需要の高さ、運用資金のドル回帰からだと考えます。ドルの事情から考えるとマーケットの動きが理解し易くなると思います。世界景気も同様に、米国の景気をまず考える必要性があります。その考えから今回の新型コロナショックを捉えると、専門家の方々とは少し違う見解が生まれます。
以前より私は米国の好景気が長期に渡り継続されていることを指摘してきました。米国の景気循環サイクルから見ると、キチンサイクル(在庫投資循環)、ジュグラーサイクル(設備投資循環)、クズネッツサイクル(建設投資循環)の3つが本来同時に2018年にピークを付け下降トレンド入りするサイクルでした。しかし米国政府による減税策、財政出動等によって景気が維持されましたが、昨年後半はその効果が薄れつつあったので、何かをきっかけに景気後退となるリスクは高まっていました。
中国との貿易紛争も景気のマイナス要因でした。サイクルから考えると、たまたま新型コロナウイルスがきっかけとなっただけで、元々景気後退入りするのが必然であったと考えます。このサイクルのうちキチン、ジュグラーサイクルは、2021年~2022年にかけてボトムを形成する可能性が高く、従って、今回の新型コロナショックによる景気後退も基本的には1~2年は続く可能性が高いと考えます。ただここで忘れてはならないのが、各国の過去に例のない膨大な金融緩和策と財政出動です。これらの資金は過剰流動性相場を作る可能性が高いのです。ただし景気後退局面での過剰流動性相場は短命となる可能性が高いことから、短期間に上昇し、一気に崩壊する可能性があります。
ではこのことを踏まえた今後のマーケットの予想ですが、現在は各国の株式市場が大きくリバウンドをしたことから安堵感が広がっているように思えます。しかし、これからようやくコロナショックの影響が数値として顕在化してくる時間帯に入ります。企業業績、経済指標、当初のマーケットの下落による損失の実態、原油の大幅下落による損失の実態や二次的な影響などです。ロックダウン等のウイルスの抑制策も効果が出るまでにまだ時間がかかることから、ここ1~2カ月は再度下落する可能性が高いと考えます。
ここで経済的なマイナスを織り込み、ウイルスの抑制策の解除が開始されれば、その後は政策による潤沢なマネーの力によって期間が短い可能性はありますが、過剰流動性相場(バブル)が発生する可能性が高くなると考えます。もしそのまま完全にウイルスを撃退できるのなら、しばらく好況が続くと思いますが、再度ウイルス感染が拡大し始めると短命に終わると考えます。私の考えは後者で、年末までには再度ウイルスに注意する必要性が出てくると考えます。
今年の11月には米国の大統領選挙があります。現米国政府もなりふり構わず政策をとる可能性が高いと思われますので、もしこの後に下落する局面があれば、一度金融市場と向き合って頂きたいと思います。
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