超富裕層が依頼する「プライベートバンク」の魅力
「プライベートバンク」とは?
5つ星マガジン読者の方も、「スイス銀行」と言う名前を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか?あるいは、映画やドラマなどで「報酬はスイス銀行へ」などという台詞があると、「とてつもない金持ちなんだろうな」などと納得することも。
それくらい、「スイス銀行」という名称は、王族や超富裕層に特化したブランドのようなイメージがあるかと思います。
「プライベートバンク」は、「経営に無限責任を負う個人の銀行家であるプライベートバンカーが所有し、経営する銀行」という定義の元、富裕層や王族の資産管理をする「個人銀行」で、顧客と一対一での関係で成り立っているのが特徴です。
「プライベート・バンキング」の歴史
「プライベートバンク」の発祥は、11世紀のスイスでの十字軍遠征までさかのぼります。
階級社会が長く続いたヨーロッパでは、貴族などの資産保全を業務とする財産管理人が活動していました。これが今の個人営業の「プライベートバンク」の始まりです。
十字軍以降も戦乱が続いたヨーロッパでは、特に軍人として活躍したスイス人に富が集中しました。イギリスでは、17世紀半ばから「クーツ」等の伝統的プライベートバンクが始まっており、大地主や貴族の財産の保管や運用を手がけた金融業が、結果的には「プライベートバンク」へと発達します。
この「イギリス型」の「プライベートバンク」は、フランス革命から逃れてきた資産やロイヤルファミリーの資産などを吸収しつつ、幅広い資産家の財務面の管理を請け負うようになっていき、これが現在も「プライベートバンク」として経営されています。
「プライベート・バンク」の定義は?
スイスで始まった「プライベートバンク」は、「最低1名以上の無限責任のプライベートバンカーがパートナーとして経営に参画している銀行」と言う組織形態をとっています。
「プライベートバンカー」とは、パートナーシップの形態で、銀行を所有、経営し、その経営にたいして無限責任を負う個人銀行家のことを指します。
そのため、銀行はリスクが派生しない業務しか扱わずに済み、倒産リスクがほぼ皆無となります。それが他の金融機関との最大の違いであり、特長でしょう。
そのため、規模の拡大は追わずに、スタッフの数も、数十人からせいぜい数百人ぐらいまでで、小規模経営が一般的です。
顧客対象は、主に王族や貴族を含む世界の超富裕層や富裕層であり、実態として、そうした富裕層が「個人的に資産運用や管理を活用する銀行」という、いわゆる「私的な銀行」と言う意味で、「プライベートバンク」と呼ばれています。
「プライベートバンキング」との違い
近年、「プライベートバンク」と業務内容を良く比較されるのが、「プライベートバンキング」です。
名称もよく似ており、富裕層を顧客に持っていることも同じですが、「プライベートバンク」が「私的銀行」であるのとは違い、「プライベートバンキング」は主に企業を対象にした、金融機関によって総合的な資産管理を行うサービスです。
銀行が持っているすべての部門が資産を運営していくので、銀行・信託・証券・不動産など、それぞれの部門が専門分野を担当すると言うイメージです。
そういう意味で、顧客は機業自体が主になり、ビジネス展開をケアしていくことが主となっていきます。
日本でも、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行など、メガバンクと呼ばれる銀行はその役割を担っており、他にも信託銀行、証券会社などでサービスが始まっています。
また、各金融機関は専門の人材を「プライベートバンカー」として有しており、対個人の形で、金融マネージメントを請け負っています。
「プライベートバンカー」の役割と存在の意味
「プライベートバンク」で何より重要なのは、「プライベートバンカー」です。
スイス銀行業法では、「少なくとも1名は、無期限責任を有する私銀行家がパートナーとして経営に参画している銀行」が、「プライベートバンカー」という名称を名乗れるとさています。
また、スイスプライベートバンカー協会では、「プライベートバンカー」という名称に対して、世界中の、単数形、複数形、言語を問わず、団体商標の権利を保持しています。
よって、「スイスプライベートバンカー協会の会員資格」が必須条件であり、これがそのままプライベートバンクの定義と等しいとされています。
ここでは、その条件を満たし、現在も「プライベートバンカー」として活躍している銀行をご紹介しましょう。現在では、「無期限責任」を有する「プライベートバンク」は6社。
バウマン(Baumann & Cie)
https://www.baumann-banquiers.ch/de/baumann-cie/index.php
100年の歴史を持つこの銀行は、第一次世界大戦以来、3人の無限責任パートナーが密接に結びついたチームとして長年やってきました。どんな時も、保守的でありながら独創的な戦略で、過度の多角化を望むことはありません。
それは、パートナー自身の財務力と銀行資本が、ビジネスの保証であるという考え方で、特定の政治にも片寄らない意思決定と、顧客中心の活動方針がバウマンの強みとなっています。
ラーン&ボドマー(Rahn & Bodmer)
投資顧問および資産管理を専門とするスイスの プライベートバンクです。
1750年にチューリッヒで設立され、今日ではチューリッヒで最も古いプライベートバンクとなっています。その形態は、5つの無限責任パートナーとの限定的なパートナーシップで、数世代にわたって、チューリッヒ家のラーン、ボドマー、ビダーマンによって所有されています。
キャピタル・バンク(Capital Bank)
スイス以外の国でも歴史あるプライベートバンカーは存在しています。
「キャピタルバンク」はウイーンにあるプライベートバンクで、1828年創業。
オーストリア皇帝の弟が創業者と言うことで、「皇帝の金庫番」と呼ばれています。
現在もその子孫がアドバイザリーボードに名を擁しており、本店はパレス(宮殿)と呼ばれています。
また、キャピタル・バンクは、プライベートバンクであると同時に、GRAWEグループの投資銀行でもあり、GRAWE保険協会の保険資産の運用を任されています。その経験と実績をベースに、富裕層、ファミリー、財団法人および金融機関を対象に、資産管理および運用に関わる、プライベートバンキングでもあります。
「プライベートバンク」の在り方とは?
長い歴史を誇る、「プライベートバンク」であるがために、その形態を維持していく中で、世界を揺るがす事件もあります。
そのことで、「無限責任」を「有限責任」へ変更するなど、今現在の「プライベートバンク」の動向も変わりつつあることも事実です。
情報社会の中、多くの富裕層の顧客情報を持っている「プライベートバンク」。
どんな事件があり、そして、今後、どういうあり方が望まれるのか、視点を変え見てみましょう。
「スイスリークス事件」
元来、顧客情報の機密保持は「プライベートバンク」の絶対理由でありました。
しかし、2010年に起こった、「スイスリークス事件」は、その優位性が失われるきっかけとなりました。
この事件は、2007年、HSBCホールディングス・プライベート・バンキング部門の情報技術担当だったエルベ・ファルチアニが、多数の顧客ファイルをデータをフランス政府当局に提出していたというもので、この情報は、フランスでの脱税の摘発のために活用されました。
さらに、2010年には国際調査報道ジャーナリスト連合が、このファイルをフランスの新聞ル・モンド経由で入手。2015年に45社を超える世界中のメディアに提供すると言う、前代未聞の情報開示事件となったのです。
ちなみに公開された文書によると、HSBCはセレブや独裁者など、200か国以上の顧客の脱税を幇助したとされています。
この事件を背景に、大手プライベートバンクが、アメリカ合衆国連邦政府に顧客情報を提出するようになり、「プライベートバンク」の最大の利点だった、顧客資産管理の差別化要素を失うことになりました。
2015年2月には、ジュネーブ検察当局が、マネーロンダリングに関与した疑いで、HSBCのプライベートバンクを家宅捜索するなど、結局スイスでも、自国プライベートバンクの優位性を「崩す」動きを強めることとなります。
新たな「プライベートバンク」の動向
そもそも、スイスをはじめとするプライベートバンクが、世界中の超富裕層から資産運用を任せられるに足る信頼を集めたのは、何よりも顧客の個人情報を厳格に、確実に死守してきたことでありました。
しかし、アメリカや欧州各国、OECD加盟国などの、富裕層への課税強化が進んだこと、プライベートバンク事態が、富裕層の資産秘匿、ひいては課税逃れに利用されてきたことへの批判が高まってきたことで、取引の透明性の確保が必要とされ始め。現在では、スイスのプライベートバンクさえ、守秘義務の在り方は大きく変わっています。
そういう意味で、最近では、「プライベートバンク」自体の提供範囲を狭め、対象顧客をより選別していくという傾向が明らかになっています。
「プライベートバンク」に口座を開設するには?
5つ星マガジン読者の中には、資産運用などを実際に考えていたり、運営したりしている方もいるかもしれません。ある程度の資産があれば、やはり一度は、「プライベートバンク」との取引を考えてみたいと思うのではないでしょうか。
では、実際に口座を開設する条件など、どんなことが必要なのでしょうか。
どの国のプライベートバンクを選ぶのか
先ず、プライベートバンクを選ぶ際、同時に口座を開く国を選ぶことが非常に重要です。なぜなら、拠点を置く国によって規則や指導が違い、受けられるサービスの内容に影響が及ぶからです。
例えば、国際金融センターとして現在注目されている、アラブ首長国連邦の首都・ドバイを選ぶとします。
「中東のシンガポール」とも呼ばれ、税制面でのメリットはかなり大きく見えますが、何より金融市場としての歴史が浅く、金融哲学を持ったプライベートバンクは皆無と言えます。また金融人材の厚みもありません。
では国際金融センターとして、各種ランキングで世界の上位に入る香港はどうでしょうか?
実は、現在中国政府のコントロールが強くなっており、かつてのような自由で安定した環境が失われつつあります。今では中国本土の富裕層の間でも、香港から別のところへ、資産を移す動きが起こっています。
次に世界の中心、アメリカはどうでしょう。
アメリカは、SEC(証券取引委員会)が大きな権限を持って、金融行政をコントロールしています。なのでアメリカの機関では、自由度があまりないでしょう。
やっかいなのは、アメリカ国内に資産を持っていると、ヨーロッパなどのプライベートバンクと取引をしようとすると、大量の書類の提出を求められることです。
米国に資産を持っているというだけで、例えばスイスなどの伝統的プライベートバンクに口座を開こうとすると、多くの追加資料を求められたり、敬遠されるケースさえあります。
そういう意味では、いまや世界の富裕層の金融市場は、「米国」と「それ以外」に分裂しつつあるのが特徴です。
米国は独自のルールや、政策判断を基準に金融政策を進めており、OECD(経済協力開発機)のネットワークにも参加していないのです。
以上のような観点から、プライベートバンクと取引するのであれば、スイスやリヒテンシュタイン、オーストリアなどに口座を開くのが比較的良いということになります。
プライベートバンクの口座開設の方法とは?
銀行と同じように口座開設にはステップがあります。
①プライベートバンクとコンタクトをとる。
コンタクトを取る一般的な方法は、「紹介」です。
すでに顧客となっている人や関係者、少数ではありますが、プライベートバンクへの紹介をビジネスとしているコンサルタントもいます。
いずれの紹介者も、バンクと口座開設希望者を引き合わせるだけでなく、バンク側には一種の身元引受人となる存在でもありますので、絶対的に信頼できる相手である必要があります。
②事前審査
口座開設者の資産状況、資産形成の過程、家族構成、将来の計画や、驚くことに、精神的不安要素などの確認まであります。
特にマネーロンダリングに関係した資金ではないかということは、審査の際び重要事項となります。
また、万が一遺産相続が発生した場合、誰が口座を引き継ぐのかを明らかにしておくために家族構成は確認されます。
③面談
事前審査と前後して面談も行います。
初回は経営者や頭取などに、銀行の経営哲学や歴史を説明されることもあります。
まずは基本的な運用方針やリスクの確認等を通じて、お互いのことをよく知るために面談は必要なことなのですね。
プライベートバンクは、顧客のことをよく知ろうとします。
それは、個々の顧客に合ったサービスを行う長期のパートナーとなるためで、これが最初の仕事と言っても過言でなないかもしれません。
④口座開設
面談と並行して、多くの書類に個人情報を含む情報を記入し、いくつかの宣誓書にサインをし、それらの書類作業が終わった後に、口座番号が連絡されてきます。その後担当者からの指示により、口座に資金を振り込み、ようやく取引開始です。
運用にあたっては、特に期間は設定しません。短期的な投資ではないので、当然、顧客の寿命くらいまでは、運用は行われていきます。運用状況については定期的にレポートが送られてきます。間隔は半年単位や年単位が一般的です。
最後に
いかがでしたか?
十字軍遠征の時代から始まったとされる「プライベートバンク」。
特別な富裕層のみの特権のようですが、絆を基盤に長く運用されている信用機関です。
確かに潤沢な資金があれば是非口座を解説してみたい!
想像するだけでも魅力的な、「私の銀行」であることは間違いありませんね。