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ヴェルサイユやブレナム。宮殿庭園に学ぶガーデニング。

ヴェルサイユやブレナム。宮殿庭園に学ぶガーデニング。

ルイ14世は、ヴェルサイユ宮殿において建物よりも庭園に強いこだわりを持ち、造園に心血を注いだといわれています。英国では、貴族たちが自然の風景と一体になる庭園造りにこだわりました。造園に必要なのは、芸術性と表現力、自然と語らい共に生きるための感性と技術、造築のための匠たちの技、さらにこれらを実現するための人員と費用の確保も重要です。日本や中国、世界のあらゆる国で特有の庭園文化があり、形式や手法もさまざまです。そんな中で今回は、ヨーロッパにおける代表的な庭園をご紹介します。

フランス式庭園の代表作、ヴェルサイユ宮殿の庭園。

世界遺産のヴェルサイユ宮殿は、もともとはルイ13世が狩猟用の館として使っていた建物を、ルイ14世が宮殿につくり変えたものです。ルイ14世は、「有史以来、最も大きく、最も豪華な宮殿を」という言葉で、壮大な宮殿建築をスタートさせ、改良は亡くなるまで続けられたそうです。有名な鏡の回廊をはじめ、建物の素晴らしさはよく知られるところですが、庭園も建物とともに世界遺産として登録されており、フランス式庭園の最高傑作といわれています。

フランス式庭園の大きな特徴は、平坦で広大な土地に幾何学的に整えられた庭園であることです。木々は刈り込んでかたちづくられ、噴水や水庭、花壇なども整然と配置された造形的な美しさです。

・イタリアに学んだ、造園家アンドレ ル ノートルの仕事。

ヴェルサイユ宮殿の庭園を任されたのは、造園家アンドレ ル ノートル。17世紀後半の当時、アンドレ ル ノートルによるこの庭園は、造園界に大きな変革をもたらしたといわれています。

ル ノートルは、ヴェルサイユ宮殿の庭に着手する前に、イタリア式庭園を学んだそうです。イタリア式庭園は、ヨーロッパにおける庭園の起源とされています。確立したのは、14〜16世紀で自然の美しさと造形的な美しさを兼ね備えた様式です。大きな特徴は、ヴィラ(別荘)の庭園から発展した点で、丘の中腹など隠れ家のような立地に、テラス数段を配したスタイルです。代表的なイタリア式庭園は、世界遺産のヴィラ デ エステ。中世の貴族の別荘の庭園で、500もの噴水があり、中でもオルガンの噴水は水力による演奏が楽しめるものなのだそうです。

ル ノートルは、そんなイタリア式庭園を取り入れつつ、より壮大な庭園を築きました。ヴェルサイユ宮殿の広大な庭園は、左右対称の幾何学様式が取られていて、城館を中心に東西、そして南北に主軸があり、広さをより偉大に見せる効果を計算してつくられています。遠近法を用いつつ、宮殿周辺の構造物の密度を高め、遠くに行くほど構造物を減らすなどして、空間の広がりを強調する、土地の高低差を感じにくくする、隔たり感をなくすなどの視覚効果を実現したそうです。彫刻や噴水など構造物については、スケールを大きくすることで、宮殿と庭園の壮大さを表現し、さらには王権の偉大さまでも強調していました。

・噴水の数は、およそ1400。

ルイ14世が、庭園の中でも最もこだわったのが噴水だといわれています。もともとヴェルサイユ宮殿のある土地には、近くに豊かな水流があったわけではありません。10kmも離れたセーヌ川から揚水装置でくみ上げた水をヴェルサイユまで水路で引いて、噴水に使用しました。それは、水までもを自由にする力の象徴でもあったようです。

中でも有名な「太陽神アポロンの噴水」と「ラトナの噴水」は、太陽神であるルイ14世と、オウィディウスの変身物語に題材を得た、神の怒りにふれてトカゲなどに姿を変えられた人々を表し、王への忠誠を暗に促しているそうです。その他にも、ネプチューンの噴水、鏡の噴水、ニンフの噴水などがあります。この素晴らしい庭園は、民衆の支持を得るために、入ることを許されていました。
また、各国の要人を噴水めぐりに案内する際に使用する、ガイドブックまであったそうです。この一大スペクタクルな噴水の運営には膨大な費用が伴い、結果的には維持が困難となります。
今でもイベントとして大噴水ショーが開催され、当時の様子をうかがうことができます。

・大水路と水庭、王の散歩道とさまざまな散歩道。

宮殿から見える大水路は、全長が1670mあり、当時は夏になると舟を浮かべ、冬には凍った水面でスケートが楽しまれました。水庭は2つの長方形で、宮殿の中の、鏡の回廊を照らす仕組みになっています。

幾何学的に配置された散歩道の木々は美しく剪定され、ときどき彫刻たちと出会います。王の散歩道と呼ばれるのは、芝生が敷き詰められた幅40mの道です。

オランジュリーとパルテール。

寒さが苦手なオレンジや棕櫚などの植物を冬越しさせるために造られた建物、いわゆる温室となるのが、オランジュリーです。パームツリーなど背の高い木も普段はコンテナに入れて庭園に並べられており、寒さが厳しくなるとオランジュリーに移動されます。冬の寒さが厳しい土地において、南で育つ植物を栽培するというのは、とても贅沢なことでした。オランジュリーは年間を通じて10℃程度を保つように造られていたそうです。そして、手入れ方法や道具類も含め、ル ノートルの時代から現在に至るまでヴェルサイユ宮殿のオランジュリーは、温室として使い続けられています。その技術力、維持力には驚かされます。ヴェルサイユ宮殿以外でも、オランジュリーは建設されましたが、そのほとんどが現在では別の用途に使われているようです。

パルテールとは、区画整備した中に植物を植える花壇のことです。さまざまな形に植物を整然と植えることができ、管理もしやすいといわれています。ヴェルサイユ宮殿には、花々の開花によって色鮮やかな刺繍作品のように見える美しい花壇があります。

イギリス風景式庭園

人工的な印象が強かったフランス式庭園が人気の時代が過ぎ、やがてより自然の美しさを愛でる庭園が求められるようになります。そんな中で注目されるようになったのが、イギリス風景式庭園です。ランドスケープ ガーデンともいいます。特徴は、花壇を彩る花々が主役ではなく、湖と木々、地面を覆う芝生など、まるで風景画のようなナチュラルな庭園であることです。

17世紀の英国貴族たちの間でも、フランス式庭園が人気を博した時代がありました。ところが18世紀になるとより自然な庭園が好まれるようになり、イギリス風景式庭園が広がり、今度はフランスでもイギリス風景式庭園が好まれようになっていったのです。

・結び目庭園、ノットガーデンと迷路、メイズ。

イギリスでは、14世紀から17世紀の間に、プラントハンターが世界中からめずらしい植物を集めて来るまで、庭園にあるのは限られた植物のみで単調になりがちでした。そのため、生け垣を刈り込んで模様を描くノットガーデンが造られました。上から見ると垣根が美しい結び目を描きます。代表的なスードリーキャッスルのノットガーデンは、当時を再現していますが、その模様は、エリザベス1世のドレスの模様だったといわれています。

ノットガーデンの生け垣よりももっともっと背の高い生け垣で迷路を造る、そんな遊び心のある庭園も英国庭園のひとつの特徴です。不思議の国のアリスが迷い込んだ迷路も、モデルがどこかにあるのかも知れません。

・イギリス風景式庭園の“ハハー(ha-ha)”とは?

笑っているかのような名前のハハーとは、空堀のことです。フェンスや垣根をめぐらすと視界が遮られ、自然の風景との間に無粋な境界ができてしまいます。ハハーを活用することで庭園として美しく成立し、外部からの侵入も防ぐことができ、自然の風景との境目をなくして庭園が永遠に続いているかのように見えるのです。平地の上に塀を建てるのではなく、下に塀を造るイメージです。ハハーの名前のいわれは、突然現れた空堀に驚いた人が、ハハーと声をあげたからとか。空堀といっても、外部から簡単に越えられるほど小規模なものではなく、危うく落ちたりするとたいへんなことになるくらいの大きな段差です。ハハーの考案者として知られているのは、チャールズ ブリッジマンで代表的な庭園としては、ストウ庭園があります。

・イギリス風景式庭園の魔術、ランスロット “ケイパビリティ” ブラウン。

ストウ庭園の造園にのちに参加し、イギリス風景式庭園を語る上で欠かせない造園家が、ランスロット ブラウンです。彼がなぜ本名のランスロットより、“ケイパビリティ”という名前で呼ばれているのか、それは依頼主である地主や貴族に対して「あなたの土地は素晴らしい庭になる“ケイパビリティ”=素質、可能性がある」と、必ずのように言ったからなのだそうです。彼が生涯に手がけた庭園は、170を超えるといわれています。そして、彼こそが、風景庭園を生んだ造園家なのです。

代表作は、元英国首相ウィンストン チャーチルが生まれた邸宅として知られているブレナム宮殿、ジェーン オースティンの小説「プライドと偏見」のダーシー氏の屋敷のモデルとなり、映画では実際に撮影に使用されてという、マナーハウス チャツワースなどがあります。

今回は、ヨーロッパの中でも代表的なフランスとイギリスの庭園についてのお話でした。また、いつか日本庭園やペルシャ庭園についてもご紹介したいと思います。

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