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その癒し、5つ星級。人生を変える会員制リゾート

世界中の着物ファンを魅了する京友禅。その美しさと技術を新たな形で未来につなぐ『京都デニム』

世界中の着物ファンを魅了する京友禅。その美しさと技術を新たな形で未来につなぐ『京都デニム』

元禄時代、京都で生まれ発展した京友禅。日本三大友禅(京友禅、加賀友禅、江戸(東京)友禅)の中で最も歴史が古く、豪華絢爛な染めの技法は、日本を代表する伝統工芸の一つとして、多くの人々を魅了してきました。しかし、時代は流れ着物の需要に陰りが見え、その雅な美と日本ならではの匠の技が消えようとしています。この状況を憂う二人の若者が、京の手描き友禅を現代のさまざまなアイテムに施し、大切に守りながら未来へ繋げようと2007年に『京都デニム』というブランドを立ち上げました。ご紹介しましょう。

京友禅の継承の危機

アトリエ京都デニム[(右) 代表・職人デザイナー 桑山 豊章氏 / (左) 取締役 広報・営業担当 宮本 和友氏]

『京都デニム』はJR京都駅烏丸口から東へ徒歩5分ほどの、下京区小稲荷町にお店を構えています。代表 兼 デザイナーであり、京友禅染めの職人でもある桑山豊章氏の実家は、江戸中期から続く着物の製造業でした。大学卒業後、家業を継いだ桑山氏は、大学の後輩で仲のよかった宮本和友氏(現在、京都デニム取締役兼広報・営業担当)を家業に誘います。今からちょうど20年ほど前のことでした。
日本がバブル景気を迎えるまでは呉服業界も順調で、着物を嫁入り道具として持たせるのがあたり前の時代でしたが、バブルの崩壊とともに高価で取扱いも難しく、着つけやしきたりなど、洋服よりも敷居の高い着物は日常的でなく、どんどん需要が落ち込んでいきました。

そのような状況下で、20代の二人は、着物の製造、販売に少しずつ違和感を覚えるようになります。「着物は日本の文化でありとても大切なもの、それ以上に、普段身近で仕事をしている職人さんたちの技術は素晴らしい、それなのにこのままでは20年後、30年後、友禅の技術を持つ職人がゼロになってしまうかもしれない、二度とこれを作ることは出来なくなるのではないか」と。危機感とともに京友禅を守っていきたい、残していきたいという、熱い想いを持ったのです。

友禅の新たな可能性を探る

2004年、二人は着物(絹)以外の色々な素材を自分たちで染色してみたり、着物でお世話になっていた10人くらいの友禅染めの職人さんに、染色を他の素材に活かしてみたいと相談しました。綿や麻を始めとする色々な素材を染色する中で、Tシャツとデニムのジーンズを染めてみてはどうかと思い立ちます。Tシャツのような白い綿の素材に、友禅染めの技法を施すのは、意外とたやすいことでした。しかし、Tシャツはプリントという技術がすでに進んでいましたし、友禅染めをやっている人も他にいて、敢えて京友禅としての優位性を出すには無理があり、新しいチャレンジとしては、面白みがありませんでした。

一方、デニムは最初から藍色に染まっています。友禅を施す箇所の色を抜き(抜染-ばっせん-という)、そこに友禅を施す方法であれば、デニム生地にも友禅が描けるのではないかと思いつきます。友禅柄の型紙に従って「抜染」し、元の白い状態に輪郭線をはっきり出すことによって、はじめて筆で色を挿すことができ、多色に染め分けることもできる、というのが基本的な流れです。理論的には考えられるものの、この技術をデニムに用いる人がいなかったのは、とても非効率で時間がかかるため、ビジネスとしてやる意味を見いだせなかったからなのです。

「自分たちのロマンかもしれないが、せっかくやるなら、誰もやっていない、世界中を探しても見つからないものをやりたい。手間がかかるからこそ、競合相手もすぐに現れるはずもない。市場を考えても、面白いし挑戦のし甲斐もある」。桑山氏と宮本氏はそんな難しいハードルをあえて越えてみたくなったのです。

やはり数々のハードルがありました。先にも述べましたが、相談を持ち掛けた10人の職人のうち、8人に断られます。断られた理由は様々でした。「デニム生地に友禅を施すという、そんな手間のかかることはやってられない」、「プライドをもって京友禅をやっているのに、ジーパンのような作業ズボンに友禅をやるなど、友禅を馬鹿にしているのか」と怒る人もいたのです。
「40年、50年と職人人生をかけて古くからの友禅を守ろうと頑張って来られた方からすると、20代の若者がいう事に、『簡単にできるものではないよ』と、カツをいれるつもりで言ってくださったのかもしれない」と、時間を経た今だからこそ、宮本氏は振り返ります。

一番の難関、デニム生地の抜染(ばっせん)

抜染を行なうための型紙

そのように難色を示す人がいる中で、ベテランの二人の職人が協力をしてくれました。
色を抜くための「抜染」という技術は、ベテラン職人の二人にとっては、すでに完成している技術のように思えました。しかし、長年着物(絹)の抜染をやってきた職人であっても、デニム素材から色をくっきり抜こうとすると、力が強すぎて生地に穴を開けてしまったり、耐久性の面で加減が難しく生地を傷めてボロボロにしてしまったりと、失敗が続きました。
これはデニムが染められた染料成分に様々な違いがあったり、生地の原料となる綿の産地によっても違いがありました。人間の肌が人によって質感や水分量が違うのと同じように、素材ごとに異なる性質があり、そのコンディションも異なったのです。
加えて、日本の四季折々の気候の変化や、雨が多くて湿度の高い日、カラッと晴れた日、すごく底冷えのする日など、作業をする日のコンディションによっても仕上がりが大きく違ってくるのです。職人たちがこれまでの経験で、季節ごとに異なるレシピ(データ)をすでに持っていても、着物と同じようにいかないのが難しいところでもあり、突き詰めると面白いところでもありました。

これだけ住環境が整備され、エアコンなどもある世の中で、京友禅の職人がエアコンを使うことなく、暑い中でも汗を反物に落さないようタオルや手ぬぐいを巻きながら、作業をやってこられたのは、反物全体のコンディションを均一に保つためのひとつの知恵だったのです。
2004年から構想を練り、多くの試行錯誤を繰り返し、下準備を始めた桑山氏と宮本氏の挑戦は、2007年に『京都デニム』という新たな形で京友禅を未来に継承すべく、スタートしたのです。

『京都デニム』に込めた願い

二人が「デニム」という言葉にこだわったのにも、理由がありました。「デニム」というのはテキスタイルであり、素材名です。彼らは、例えば『京都ジーンズ』というようなアパレルのブランドがやりたかったのではなく、将来へつながる京友禅の後継者の育成ということも視野に入れた、大きな夢のために、「デニム」という素材名を使ったのです。

いつか『京都デニム』が認知されたときに、「それ、面白いね。私にも教えて!」と言って一緒にやる仲間が他にも増え、いつか『西陣織』とか『京友禅』みたいに、『京都デニム』自体が京都を代表するブランドのひとつとなり、「京都って、友禅染めの”京都デニム”で有名だよね」と言われたいという、願いを込めたのだそう。

また、「デニム」は、グローバルに世界中の人が主に衣類として愛用する素材。そのデニムに手描き友禅の技術を生かした、草花模様を始めとする様々な着物の柄が描かれると、唯一無二の、この世に1つの「デニム」に変身します。日本人のみならず、外国の方にも『京都デニム』を知って、使っていただきたいという願いもそこにはありました。

ジーンズに施す京友禅

2007年の創業時から約10年間は、主に広島や岡山のジーンズの縫製工場に依頼し、オリジナルのジーンズを製作して、そのジーンズにオーダーメイドの友禅を施して販売していました。桑山氏は元々大学で美術を専攻するほど、絵を描くことが得意で、身近な職人たちがすることを見よう見まねで覚えていきました。宮本氏は、色の濃淡からイメージの細かい要望までを、お客様から聞き取り桑山氏に伝えます。
「自分たちはアーティストではないので、常にお客様のご要望が第一。色のイメージが思っていたのと違うと言われれば、やり直しにも応えます。お客様の個性に出来るだけ寄せていく作業が一番重要だと思っています。それがお客様の期待を上回るものになれば、我々の喜びに変わります」と宮本氏。

国内有名椅子メーカーとのコラボ

国内外含めて、年齢層も幅広く京友禅を知ってほしい、デニムという素材を軸に、人間が生きる上で必要不可欠な衣食住すべてに京友禅を楽しんでいただきたいと考え、二人は10年の節目となる2017年ごろから新たなチャレンジを始めました。
まずは住環境へと、国内外に幅広く展開している、国内の椅子のメーカーにコラボ製品を作りたいとアタック。10社以上に交渉を重ね、3社の有名メーカーと提携することに成功しました。徳島県の宮崎椅子製作所、山形県の天童木工、秋田県の秋田木工です。座面には京都デニムの生地を使い、各社の趣のある美しい椅子に仕上げられています。蒼々たるメーカーとコラボさせていただくことは、京都デニムにとっては、ひとつの大きなジャンプアップとなりました。

作品展で魅せた「衣食住」をテーマとした用の美

デニムの襖

三井ガーデンホテル京都駅前店のコンセプトルーム(障子、椅子、ベッドスロー、クッションなど京都デニムのインテリアを実際に見て体感できる)

そして、2018年には『京都デニム』の作品展が開催されました。
そこではまさに「衣食住」をテーマに、衣としてのジーンズ、身の回りのアイテムとしてのバッグ、住としてのふすまや掛け軸、椅子、障子、壁紙、ライト、模造刀のさやまで。
食のジャンルでは、のちに飲食店などから多くのオーダーが入ることとなったのれんなど。デニムをキャンバスとして描かれた手描き友禅の独特のぼかし(グラデーション)の美しさは、様々なアイテムと調和し、まさに「用の美」として輝きを放ったのです。
これを機に、ホテルからはコンセプトルームや壁紙、制服などのオーダーが、また、飲食店や芸能関係者の楽屋ののれんのオーダーも入るようになったのです。

予期せぬ事態による転換の岐路

デニムワイドトートバッグ(¥13,200(税込)~)

デニムトートバッグ(¥12,100(税込)~)

2020年、日本のみならず世界中が新型コロナウイルスの猛威に襲われると、京都デニムも大きな転換の岐路に立たされました。提携していた広島、岡山のジーンズの縫製工場がコロナ禍のあおりを受け、一時的に工場を止めるなど、供給がこれまで通りできなくなったり、緊急事態宣言による自粛生活で、ジーンズの需要自体が急激に減るなど、市場に大きな変化が起こったのです。

京都デニムも色々と見直しをせざるを得なくなり、メインアイテムをジーンズから、バッグに移行することを決断します。衣食住の衣を直接着るものから、ファッションアイテムとしてのバッグに変更したのです。ネット環境が普及した今の時代、距離はあまり関係ないですが、地元の京都府内で、デニムの染色ができる工房を探したり、バッグ縫製の取引先を回って協力を依頼しました。府内であれば、直接取引先と顔を見て話せ、多少の無理も聞いてもらえるなど、やりやすい面も出てきます。また、京都を盛り上げるという観点からも京都産の染め、京都産のバッグにチェンジするチャンスと捉えたのです。

(左)デニム真四角バッグ(¥30,800(税込)~)/(右)デニムマルシェバッグ(¥11,000(税込)~)

簡単なデザインのものから、複雑で珍しいデザインのものまで、和服でも洋服でも合わせることのできるバッグを製作する工房の協力を得ることができました。桑山氏がデザインした友禅染めを施したトートバッグや、着物や普段の洋服にも合わせられるような、コンパクトでスタイリッシュなデザインのデニムバッグもできました。

柔軟にお客様のご要望に応える

手持ちのジーンズにデザインサンプルから選んだ京友禅の模様を施すことができる(納期:お持ち込みから2週間~/ 京友禅オーダー ¥17,777(税込)~ )

メインアイテムをバッグに移行したとしても、ジーンズやインテリアなどをやめたわけではありません。もう一つ発想の転換として、SDGsやサスティナブルということを考え、すでにお客様が持っているデニムのスカートやパンツを預かって、デザインサンプルから好きなデザインを選んでもらい(複数を組み合わせることも可能)、オーダーで友禅染めを施すプランです。これは、手持ちのデニムにプラスアルファの付加価値を付けて、さらに5年、10年と長く愛用していただくというものです。インテリアについても、要望があればオーダーに応じています。

創設当初から続けているサスティナブルな取り組み

でにぐま(¥3,850(税込))

また、サスティナブルな取り組みとして、京都デニムを立ち上げた10年以上前から、デニム工場で出る端切れや余ったボタンなどを回収し、パッチワークでクマのマスコットも作っています。元々着物を扱っていた二人は、京都デニムを始めたときに、着物は端切れを出さないのに、洋服は裁断して残った生地が捨てられていることに、衝撃を受けたと言います。
「捨てるパーツをよみがえらせるという、着物目線で当たり前だったことが、エコやサスティナブルでよいとされている。これってすごく面白い」と宮本氏は語ります。

想いはお客様の喜びにのせて

二人が始めた手描友禅染めは、文様の一つ一つに筆で色を挿していくのが大きな特徴です。淡い色からだんだん濃い色へと幾重も色を重ねながら手作業で描いていきます。重ねられたぼかしの美しさは、受け継がれてきた繊細で高度な技であり、全て1点ものという、京友禅の魅力はなにものにもかえがたい日本の誇る職人技なのです。
その伝統技術を継承するために始めたことでしたが、今はお客様に喜んでいただくモノづくりをすることが一番と思える価値観に変わってきたと言います。一人一人のお客様と向き合い、お客様に喜んでいただけることが多くなれば、京友禅に興味を持っていただける。すると、この技術が着物から来ているものだと知っていただける。京友禅の形が変わってもこの技術を別の形で繋げて、日本の伝統工芸や文化も知っていただけるきっかけになれば嬉しいと、二人の二人三脚のモノづくりは未来へと続いていきます。

取材・文・写真 森永 桂子

京都デニム
住所:京都市下京区小稲荷町79-3
電話:075-352-1053
営業時間:9:00~19:00(定休日なし)
https://kyoto-denim.com/

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