丹波篠山、小田垣商店が発信する黒豆の文化
正月のおせち料理に欠かせない黒豆煮。その黒豆の中でも最高級といわれる「丹波黒」は、兵庫県の丹波地方の特産品として知られ、粒が大きく食感、味ともに優れていることから、全国の料理人がわざわざ取り寄せているほど。兵庫県丹波篠山市の小田垣商店は、1734(享保19)年創業。豆の専門店として、生産者と直接取り引きをし、卸や小売を手掛け、近年では海外にも展開しています。国の登録有形文化財の指定を受けている本店を2021年4月にリニューアル。黒豆の新しい情報発信拠点としてスタートをきりました。
小田垣商店の歴史をあらわす建築
丹波篠山市は篠山城を中心に栄えた町で、江戸時代の街路や、間口が狭くて奥行きがある商家が今も残っています。その伝統的建造物である妻入商家群の近くに、豆の専門店「小田垣商店」があります。丹波黒大豆を全国に広め、秋(毎年10月の2〜3週間のみが収穫の時期)にとれるまだ青い黒大豆の枝豆を全国区にしたのも小田垣商店の力によるものが大きく、まさに日本一の「丹波の黒豆屋」といえるでしょう。
小田垣商店の敷地にある店舗や作業場のうち10棟が、2007(平成19)年、国の有形文化財に登録されました。そのうち5棟を改修し、2021年4月にお披露目となりました。
改修のコンセプトは「時代を還る建築」。「古い建物の価値を未来へ、黒豆の文化を未来へ、そして世界へ伝えたい」と小田垣昇社長が語るように、1700年代から280年以上の時を刻んだこの場所とその時代を生きた人々の思いを後世に伝える意味合いもあるのです。
建物に関しては、あえて過去に戻すように、江戸から大正時代の雰囲気を出すように作り込まれています。ショップの床は、京都の商家で実際に使用されていた古い町家石を一面に敷き詰めています。石でできたなつめ形の手水鉢も時代を経たもので、趣のある什器として存在感を放っています。
設計を担当した新素材研究所らしい素材の扱い方や、細部まで計算された美しい意匠を随所に見ることができます。最も特徴的なのは石庭です。新素材研究所の杉本博司氏(現代美術作家)による、環状列石に着想を得て並べた石柱を中心に、美しい世界観が広がっています。同、榊田倫之氏(建築家)は「時の流れというテーマにそって古いもので時間をあらわしました。そして、その古いものが今、新しく感じられように…」と建築全般について語っています。
◇新素材研究所
https://shinsoken.jp/
豆の専門店ならではの品揃え
黒豆の栽培は難しく、生産者は並々ならぬ努力を重ねています。小田垣商店は長きにわたって黒豆を中心とする豆の生産者と深い信頼関係を築いてきました。乾燥した優れた大粒の豆の中から、熟練職人の手よりによる選別が行われ、選ばれた黒大豆だけが大玉丹波黒大豆というブランドになります。人の手で選別するのは、小さな傷を見逃さないため。傷があると、料理中に皮が破れ、崩れてしまうためです。
大玉丹波黒大豆、大玉錦白大豆、丹波大納言小豆、白小豆、青大豆、金時豆、とら豆など、扱う種類・量ともに豊富です。さらには煮豆、蒸し豆などの加工品もあり、様々な豆の味わいを手軽に楽しむことができます。
高級料理店ご用達の最高級品、飛切極上(とびきりごくじょう)は、大玉丹波黒大豆の中から、人の手で一粒一粒選んだもの。炊きあがったときのもっちりした食感と旨みは、なんともいえません。まさに丹波篠山の土と生産者の技術が生きた逸品です。
新しい風を感じる黒豆スイーツ
店舗のリニューアルに伴って商品群やパッケージも刷新しました。一大ブームになった、しぼり豆、煎り豆に加えて、黒豆ショコラ、抹茶しぼり豆など、新しい味の組み合わせで、シンプルでハイセンスなパッケージに入っています。少量パックというのも買い求めやすいですね。もちろん人気の黒豆茶も販売しています。
豆の栄養や味わいをそのままに、手軽に食べやすいドライパック。蒸し豆は、豆になじみが薄い若い世代や健康志向の人へプレゼントしたくなるような商品です。
小田垣豆堂で石庭を眺めながら
新しくできたカフェからは、美しく整えられた庭が見えます。庭を見るために作られたカウンターは、杉の木の共木を一枚板に見えるように継ぎ合わせた、シンプルで美しい佇まいです。床の間の軸は、杉本氏の書。表具の色は黒豆のサヤを表し、これも杉本氏オリジナルです。
渡り廊下は能舞台の橋掛かりを思わせ、今後奥の茶室なども改修が進む予定です。
カフェの器は、海外でも評価の高い丹波の陶芸作家、市野雅彦氏の作品。
メニューは丹波篠山牛のローストビーフと季節野菜のオープンサンドや、黒豆茶、黒豆を使ったモンブラン、ソフトクリーム、パフェなどのスイーツがあります。
地元作家や黒豆商品が並ぶショップ
ショップには地元ゆかりの作家物商品などが並んでいます。陶器は新進気鋭の丹波焼の陶芸家、大西雅文さんのもの、ガラス工芸や丹波布なども地元の作家さんを応援したいという思いを込めて選んでいます。
黒豆で染めたTシャツは落ち着いた「黒」が感じられる色合いです。他にも黒豆染めのエプロンや、黒豆を入れる袋をリメイクしたバッグなどの雑貨などもあります。
丹波と豆の魅力を発信していく
本社リニューアルを機にCI(コーポレート アイデンティティ)も変更。黒豆と小豆で三段俵をあらわしたデザインです。
「新しいCIは、古き良き文化と自然を大切に守りながら、新たな価値を創り、黒豆の文化を後世へつなげ、地域社会に貢献し続けるという経営理念を象徴するものです。生産者が丹精こめて作った黒豆を、若い世代にもっと広めたい。まだ先になりますが、本店はさらに改装を進めます。アーティストが集い、様々な文化をここから発信できるような場づくりをしたいと思います」と小田垣社長は、さらなる未来へ思いを馳せています。
小田垣豆堂 情報
小田垣豆堂 / 本店ショップ
兵庫県丹波篠山市立町19番地
TEL:079-552-0011
◇小田垣豆堂
営業時間:10:00〜16:00(15:30 LO)
定休日: 木曜日(祝日の場合は翌平日)・年末年始
◇本店ショップ
営業時間:9:30〜17:30
定休日:年末年始のみ
https://www.odagaki.co.jp/store/information/
取材・写真:ウエストプラン ガイドブック くるり丹波篠山編集部