コンシェルジュの最高峰、レ・クレドールとは。ウェスティンホテル大阪・西川和良さん(前編)

ホテルに滞在するゲストのさまざまなリクエストに応対し、旅における困りごとを解決するコンシェルジュ。寄せられるリクエストは多岐にわたるため、観光についてはもちろん、食や芸術などの幅広い知識や、ゲストとの対話力、ゲストのために即座に動ける瞬発力や柔軟性が求められます。
そんな、よりプロフェッショナルなお客様係ともいえるコンシェルジュの中でも、とくに限られた人のみが所属を許される組織があります。1929年にフランスで発足されたコンシェルジュのネットワーク組織「レ・クレドール」です。
ウェスティンホテル大阪のチーフコンシェルジュでレ・クレドールメンバーのひとりである西川和良さんに伺いました。
西川和良(にしかわかずよし)プロフィール
ウェスティンホテル大阪 宿泊部 チーフコンシェルジュ
2001年9月、ベルマンとしてウェスティンホテル大阪に入社。入社後2年でコンシェルジュの部署へ異動になり、現在まで勤務する。
趣味は音楽と美術。ミシュランで星を取るレストランから個人経営の小さな居酒屋まで、食に関する知識も豊富。
レ・クレドールとは?
――レ・クレドールとはどのような組織なのでしょうか。
コンシェルジュという職務は、お客様のさまざまなご要望にお応えする必要があるので、たくさんの知識が必要です。けれども1人の人間が世の中すべてのことを知るのは不可能ですよね。そこで約90年前に生まれたのが、レ・クレドールというコンシェルジュのネットワーク組織です。
「Service through Friendship=友情を通じたサービス」をモットーに、分からないことがあれば分かる人に知恵を借りて少しでもお客様によろこんでいただきたい、という思いから誕生しました。
最初はパリのグランドホテルのコンシェルジュ11名で設立され、その後コンシェルジュの国際的なネットワークへと成長し、現在では80カ国、530都市にいる約4,000名のメンバーで構成されています。
日本にはレ・クレドール・ジャパンが設けられ、メンバーは30名前後。大阪ではインターコンチネンタルホテル大阪のチーフコンシェルジュ・小野山さんと私の2名です。
メンバーになるテストはない
――一流のコンシェルジュでないとレ・クレドールのメンバーにはなれないと伺いました。メンバーになるためにすべきこと、などはあるのでしょうか。
レ・クレドールは国際組織ですが、国内にも「日本コンシェルジュ協会」というネットワーク組織があるんですね。まずは日本コンシェルジュ協会の会員になり、しっかり活躍する必要があります。
――活躍された方がレ・クレドールメンバーに推薦されるのですか? それとも立候補でしょうか。
始まりは立候補ですが、これにはすごく勇気が必要なのです。メンバーになるためのテストがあって◯×で審査されるならシンプルでわかりやすいのですが、レ・クレドールはそうではない。それよりも信頼に足る人物なのか、レ・クレドールという看板を背負っていい人物なのかが多面的に評価されるので、いわば「これまでの仕事ぶりを丸ごと採点してください」と自ら言っているようなものなのです。
立候補すると、まずはその方にメンターがつきます。コンシェルジュとしてどう振る舞うべきかなどメンターが職務におけるサポートをするのはもちろん、会社がコンシェルジュという存在をどう考えているかなどもきちんと調査していきます。
様々な関門を突破しメンバーへ
――ホテルといってもいろいろな種類がありますが、一定レベル以上のホテルでないと、などはあるのですか?
明確にはないのですが、会社の理解がすごく必要です。例えばビジネスホテルでコンシェルジュを置いたとしても、コンシェルジュに特化した業務ができているかといったらそうではないと思います。コンシェルジュという存在は、ホテルにとって付加価値の部分がありますので。
そういった会社の方針もチェックされつつ、毎月行われるレ・クレドール定例会での審議でもコンシェルジュとしての資質を見極められます。そして「この候補者は次の段階に進んでよい」とメンターが判断すれば、レ・クレドールメンバー全員の前で、日本語で15分ほどスピーチします。このスピーチもすごく緊張する時間ですね。その後、プレジデントとの面接に進みます。プレジデントとはレ・クレドール・ジャパンの会長のことです。ここに合格すると最終段階として審査委員会が開かれ、満場一致で認められて、ようやくレ・クレドールメンバーになれます。
――ちょっとやそっとの気持ちではとても合格できない、狭き門なのですね。
コンシェルジュという仕事に生涯を捧げよう、そういった意気込みがないとメンバーにはなれないかもしれませんね。
メンバーになると2本の金色の鍵の形をしたシンボルマーク、ゴールデンキーの襟章を授かります。襟章を目にしたお客様から「レ・クレドールのメンバーなんだね。おめでとう」とお声を掛けていただくこともありますから、期待も高いです。メンバーになることがゴールではなく、ここが始まりとして、より一層コンシェルジュとして仕事に邁進しなければなりません。
コンシェルジュに必要なこと
――西川さんご自身が考える、コンシェルジュに必要なこととは何でしょう。
ホテルに対してお客様は礼儀正しさを求めておられますが、それと同時に親しみやすさも求めておられると思います。コンシェジュルは礼儀正しさはもちろん持ち合わせていますので、加えてお客様とより繋がれるような、フレンドリーな部分も必要です。
フレンドリーさは会話に現れます。私自身はお客様が話すテンポやイントネーションを聞いて、お客様が話しやすいような会話の進め方を意識しています。私自身のキャラクターをお客様によって変える、というイメージが近いかもしれません。逆にそうしないとお客様との間に溝ができてしまい、本当の気持ちが聞き出せないのです。
ゲストの気持ちを会話で探る
――本当の気持ちとはどのようなことですか? 例えば「近くのレストランを予約したい」というシンプルなリクエストにも、本当の気持ちが隠されているのでしょうか。
お客様一人ひとりの金銭感覚がまったく違いますから、お話しさせていただいて気持ちを探す作業が必要です。「近所でおいしいイタリアン」というリクエストがあった場合、キーワードは「近所」「おいしい」「イタリアン」ですよね。ネットで検索すればある程度は絞れますが、それをそのままご提案することはしていません。私が考えるのはお客様の優先順位。「近所」って本当に近所なのか? 「イタリアン」ってピザがいいのかパスタがいいのか? 最終決定するのは、今お話ししているお客様なのかそれとも別の方なのか? そういった部分を会話で探っていきます。
また、レストラン側にもお客様を心地よく迎え入れていただきたいので、お店へ電話する時に状況や雰囲気も確認しています。その上でようやく予約をし、お客様をお見送りします。すると、食事を楽しんで帰って来られたお客様が本当にうれしそうに「おいしかったし、楽しかったよ!」とおっしゃってくださる。やっていてよかったなと心から思う瞬間ですし、私がこの場を作り上げたんだ、私だからできたんだと思えます。少々自信過剰かもしれませんが、それだけプライドを持ってこの仕事に取り組んでいます。
―後編に続く。
ウェスティンホテル大阪
大阪市北区大淀中1-1-20
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