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俳優・伊礼彼方さんにインタビュー【後編】

俳優・伊礼彼方さんにインタビュー【後編】

俳優・伊礼彼方さんにインタビュー【前編】に続いて、【後編】では昨年出演されたミュージカル『レ・ミゼラブル』について、賛同人代表となった『舞台芸術を未来に繋ぐ基金』の活動のこと、そして新型コロナウィルスによる自粛期間で感じたことなどを語っていただきました。(トップ写真:KANATA LTD. 提供)

伊礼彼方 プロフィール

沖縄県出身の父とチリ出身の母の間に生まれる。

幼少期は海外(アルゼンチン)で過ごし、その後、横浜へ。中学生の頃より音楽活動を始め、ライブ等で活動しながらミュージカルと出会う。その後、舞台を中心にミュージカル以外にもストレートプレイや朗読劇、歌舞伎、ライブコンサートなどジャンルや役柄を問わず、幅広い表現力と歌唱力を武器に多方面で活動中。

主な出演作品はミュージカル『レ・ミゼラブル』、音楽劇『星の王子さま』、音楽活劇『SHIRANAMI』、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』など。20194月にミュージカル・カバーアルバム『Elegante』をリリース。

今夏は、ミュージカル『ミス・サイゴン』でエンジニア役として出演予定だったが、新型コロナウィルスの影響で帝国劇場はじめ、全国公演予定がすべて中止となっている。

伊礼彼方さんインタビュー【前編】はこちら

ミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演

写真提供:東宝演劇部

――昨年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』に主人公のジャン・バルジャンを執拗に追い詰める警官・ジャベール役で出演されました。1985年にロンドンで初演されて以来、いろんな国で上演され愛され続けている作品です。いつかは出演したいという思いはあったのでしょうか?

いつかはやりたいと思っていましたし、ジャベールにとても魅力を感じていました。それまでは客席で、僕だったらこう演じるな、こういう表現もアリなんじゃないかな……そんなことを考えながら観ていました。なんとなく40歳を過ぎたらオーディションを受けたいなと思っていましたが、少し早くそのチャンスが巡ってきました。世界中で愛されている作品ですし、何といっても楽曲が素晴らしいですから、そういう作品に出演できたことは幸せでした。

――物語が素晴らしい楽曲の数々で綴られていきます。歌で心情を表現するのがとても難しいのではと感じます。

そうなんです。ただ歌が上手いだけではダメなんじゃないかとずっと思っていたので、自分が演じるのであれば違うベクトルから攻めたいと思っていました。もちろん歌も大事だけれども、芝居で伝えられなかったらどんなに歌が上手くても飽きられるんじゃないかなと感じていました。その役の感情を伝えるために、歌の中で芝居をするという技術が必要なのであれば、僕はそれを使った方がいいと思うし、それが職人技だと思うんです。ただ美しい曲でしょうと提示するだけではつまらなくなっちゃうんじゃないかなと。でも、オーディションで求められたのは芝居力でしたのでうれしかったですね。もちろん、ちゃんと譜面どおりに歌えることは必須ですけど。

――演じたいと思っていたジャベール役ですが実際に演じてみていかがでしたか?

楽しかったですが大変でした。物語の主軸ではなく主軸を追いかける人間なので、ポイントで出るんです。そのポイントごとの間(ま)を埋める作業が必要で、埋まっていないところを見つけるのが大変でした。風格や芝居力、舞台上に登場した時にどれだけ空気を変えられるかという人間力がすごく求められた役でした。今までの経験でなんとかやれたかなと思うのですが、まだまだ追及できるところがたくさんあるので、次にやる機会があればもっと良いものを提供できるんじゃないかなと思っています。芝居も積み重ねですから。

そして、それまで感じたことがないくらいのプレッシャーがありましたね。原作はもちろん、映画にもドラマにもなってますし、普段ミュージカルは観ないけど『レ・ミゼラブル』だけは必ず観るという方がいらっしゃるくらい愛されている作品です。お客さまが『レ・ミゼラブル』に求める思いや作品の大きさ、劇場の大きさ、世界中で上演されていること……それらを背負っている自分自身にすごくプレッシャーを感じて演じていました。

――『レ・ミゼラブル』に出演して変わったことはありましたか?

僕が変わったというより周りが変わりましたね。ありがたいことにすごく良い反響をいただきました。初めて読売演劇大賞にノミネートされて、今まで積み重ねてきたことが無駄になってなかったなと感じることもできました。大きなミュージカル作品でしっかりと芝居をお見せすることができたんだなと。演劇の権威ある賞にミュージカルでの個人賞としてノミネートされただけでもうれしかったです。

『舞台芸術を未来に繋ぐ基金』の賛同人代表に

KANATA LTD. 提供

――新型コロナウィルスの影響ですべての演劇がストップしました。その中で『舞台芸術を未来に繋ぐ基金』が立ち上がり、伊礼さんは賛同人代表として参加されています。賛同した思い、代表としてやろうと思われたきっかけは?

僕自身も半年間の大作公演『ミス・サイゴン』が一気に全部無くなって茫然としましたが、このまま落ち込んでもいられない、何かできることはないかと模索していた時にちょうど声をかけていただきました。今、少しずつ劇場も再開はしていますが、やはりコロナ禍で仕事がなくて転職するスタッフさんや、廃業に追い込まれる劇場などが後を絶ちません。少しでもそういうことを食い止められればと思っています。もし転職した人が舞台の世界に戻ってきたいと思った時に、その場所を継続させておかないといけない。

元々こういう社会活動に興味はあったんです。僕がずっと目指しているのは、自分の活動が人のためになっているということ。僕の舞台を観て「また明日からがんばれます」という声をいただくとうれしいし、役に立っているんだと感じるんです。けど、それだけではなく、ツラい状況から抜け出すことができた、未来の選択肢を渡せたなど、もっと人に寄り添えるような活動ができないかなと思っていたんです。この基金が普通のクラウドファンディングと違うのはそこなんです。お金を集めてはい終り!ではなくて、クラファン終了後も継続して、舞台芸術の未来に繋げてゆく基金なので。

――なるほど。

僕が音楽をやって売れなかった一番の理由は、小さな世界に固執した歌ばかり歌っていたからなんです。心を病んでしまった方だけに向けて歌ったりとか、一般的でなかったみたいです。でも、「伊礼さんの歌で立ち直って仕事復帰できました。今度は私が伊礼さんみたいに誰かを助けられる人になりたいです」って手紙をもらうと、僕の歌でこの人を変えることができたんだと、生きている実感があったんです。自分が持っているエネルギーで、自分の力で立てなくなった人たちを助けられるか、未来へ繋げるバトンを渡せるか、それが僕にとっての生きがいなんです。ただ、それをひとりでやるのはすごく難しいということもずっと感じていました。

――ではこの『舞台芸術を未来に繋ぐ基金』はひとつの足掛かりになりますね。

発起人の宋元燮(ソン・ウォンセプ)さんは一本筋の通った素晴らしいリーダーで非常に頭のいい方ですので、この人を頼ってなにかやれるんじゃないかと。ひとりでは小さな活動にしかならないけど、この基金に賛同してくれるいろんな役者やスタッフ、関係者を巻き込んで、チームを組んでやってみたいなと思いました。この基金はこれからの僕にとってもチャンスなんです。

――本当にいろんな方々が賛同されていますね。

お話をいただいた時に、基金の背景にある財団はどういう所かとか、細かいこともいろいろと質問しました。信用・信頼は絶対に必要な条件ですから。安心できるところに寄付をしていただきたいので、クリーンでなければ僕は参加できませんということは伝えさせていただきました。自分でもいろいろと調べて、内閣府の認可も受けている公益財団でしたので、だったら自分の名前を使ってお役にたてるのなら、協力させてもらおうと思いました。

今だからできる事はなんだろうと考えた

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――そういった活動をしつつも、やはり芝居をしたいという気持ちになりませんでしたか?

意外とそんなこともなくて、時間ができたおかげでこういう活動ができていることに感謝をしています。わりとすぐ順応できるんです、僕(笑)。もちろん歌いたいし芝居したいという思いはありましたけれど、今だから、こんな時だからこそできる事はなんだろうって考えることが楽しくて、有意義な時間になります。オリジナルグッズを作ろうとか、久しぶりに曲を作ってみようとか。今までやらなかった YouTube をやってみる?なんて話をしてみたり、稽古と本番で毎日忙しくしていた時には考えもしなかったことがいっぱいあるんだなあって思ってみたり…(笑)。

――時間ができたことでゆっくりと自分と向き合うことができましたよね。 

ただひとつはっきりしたのは、自分はあくまでも表現者でありたいということを強く感じました。表現ができないと自分は人として存在価値を見出せないなと。舞台がなくなっても生きてはいけるんでしょうけど、表現をする場がなくなるのは困ってしまう。もちろん舞台という場に戻りたいですけどね。

――表現することが自分自身である!?

自分の持っている能力は表現することしかないんですよ。表現することで社会活動をして、表現をすることでお客さまやファンの方の心を満たし、表現することで会社を保ち、家族を養う。自分の仕事って表現することなんですよね。自粛期間中に時間ができたから、今まで経験したことのないデスクワークや事務作業など、新人研修並みにいろんな事をやってみたんですけど、苦痛で仕方がなかった(笑)。

――でも、伊礼さんに事務作業も平気でできましたって言われる方が複雑だったかも(笑)。

心底、むいてなかった(笑)。でもね、事務作業をやったことで、改めて自分は表現者なんだなってことに気づくことができました。 

――表現する場がいろいろあることにも……。

そう、気づけました。だから今後は場所にとらわれず間口を広げることができるなって思いますし、新しい出会いが増えるかもしれないし、気づかなかった自分の能力を発見するかもしれない。何があるかわからないけれども、どれだけポジティブに捉えて自分のものにできるのかがこれからの課題です。

自分を大事にしない人間が誰かを大事にはできない

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――今回のコロナの件を経て、再び表現者として舞台に立つときには何かが変わっているかもしれませんね。

間違いなく変わりますよ。毎公演、明日がないかもしれないと思って立ってきましたし、明日命がないかもしれないと思って生きています。母親からそういう教育を受けてきました。それがよりリアリティをもって感じられるようになりましたよね。もしかしたら隕石が落ちてくるかもしれないし、何が起こるかわからない。だからその都度ちゃんとコミュニケーション=言葉を交わしなさい、最後の別れと思って向き合いなさいというのが母親の教えで、僕の中に一番残っているんです。

――いつ何が起こるかわからない……確かにそれがリアルになりました。

実際いつ誰が感染するかわからない中で、日頃から健康体を保たなきゃいけないなと思いましたし、常に自分と対話をしなきゃいけないと改めて思いました。少し前から肉体改造も兼ねた健康管理は始めていたので、さらに痛感させられましたよね。まずは自分を大事にしていかないと。自分を大事にしない人間が誰かを大事にはできないと思うんです。これまでは自分のことは後回しにして、あまり大事にしてこなかったので。

――何か変わるきっかけがあったんですか?

何だろうな…いろんな要素がありますけど、一番大きいのは長生きしたい(笑)。この時代の変化をできるだけ長く見ていきたいんです。もちろん舞台に立ち続けるため、家族や会社を守るため、自分が大切に思っているものを守り続けるためには、まず自分が守れる状態にいなきゃいけないと改めてこの年齢になって感じています。筋トレをサボってバランスが崩れて不調になったり、舞台後のメンテナンスを怠るとこうやって体に出てくるんだなと気づかせてくれました。でも不調が出てからだと遅いんですよね。だから、用途にあわせたトレーニングもするようになったし、食べ物にも気を付けるようにして、内臓脂肪を減らそうとか血流を良くしようとか(笑)。自分を大切にすると、より人を大切にしようとする気持ちになるんです、不思議と。

――年齢を重ねたことや大きな役を担うことで余裕が出てきたからかもしれませんね。

それはあるかもしれません。いろんな経験や要素で成長させてもらっているので、こうやって自分が感じたことを今後はちゃんと発信していきたいなと思います。今まであまり自分のことを発信していないんです。この基金の活動もそのひとつですので、その思いをホームページのメッセージに書かせてもらっています。ぜひ、読んでいただけるとうれしいです。
https://www.butainomirai.org/about-sandounin

くだらない瞬間をいっぱい見せていきたい

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――私もエンタメに携わる者として基金に協力させていただきました。今後、大きく広がって欲しいですし、伊礼さんの活動も楽しみです。

ご協力ありがとうございます。少しずつ日常が戻ってはきていますが、まだまだ舞台、演劇業界は苦難が続いています。集客人数を50%に減らした興行では収益を出すのも大変です。825日までクラウドファンディングで寄付金を受け付けています。少しでも多くの演劇、舞台関係者へ助成金を届けていきたいので宜しくお願い致します。そして、これから僕自身もいろんな活動をしていく中で新しく思いつくこともたくさんあるだろうし、どんどん発信して形にしていけたら、役者としても幅が広がるだろうと思います。ただバランスを取らなきゃいけないとも感じます。ちゃんと役者として向上心をもって精進していかないと、こういった活動をするうえでも説得力がなくなりますから。ポジティブに捉えると、時間ができたことでそういうことが自分の中で明確に見えてきましたし、やっぱりそうだよなって答え合わせができるきっかけをくれた時間でもありました。

普段はあまり連絡を取らない役者仲間から、一緒にやらないかとお誘いがあったり、誰かと何かを一から作り上げてみようかと思えました。みんなで何かをするというのはとても素敵な活動だと思うので、それが些細なことかもしれませんし、どう思われるかわからないけど、真剣に一生懸命やっているくだらない瞬間をいっぱい皆さんに見せていきたいです。

――「くだらない瞬間」、良いですね! 大人がたくさん笑っている社会になれば良いなあと思います。

笑いがあった方がいいですよね、お客さんを笑わせている時が一番楽しい。何かを渡している実感がある。芸人さんじゃないけれど…(笑)。もちろん、役者としていつでも舞台に立てる準備はしていますので、環境をしっかりと整えながら、やれることからやっていこうと思っています。

<伊礼彼方情報>

Photo by岩村美佳

●伊礼彼方公式HP https://ireikanata.com/
●伊礼彼方Twitter https://twitter.com/irei_kanata
●伊礼彼方Instagram https://www.instagram.com/irei_kanata/
●舞台芸術を未来に繋ぐ基金 https://www.butainomirai.org/

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